身体に手を当てるだけで身体が緩むはずがない?
それにはちょっとしたコツがあるのです
先日、保育園でワークショップを開催した。園長先生と知り合い、お互いに大切にしたいことが似ていて意気投合し実現した。目的は小さな子どもを持つお母さんの身体を緩めることだ。子どもが産まれると生活環境が大きく変わり、ストレスで身体を緊張させていることが多い。窮屈な思いをしていると、気持ちが落ち込みやすくなったり、イライラしやすくなったりするが、身体が緩んで脱力すると心にも余裕が出てくる。ワークショップでは誰でも簡単にできる身体に手を当てるだけの手当法を伝えた。
身体に手を当てるだけで身体が緩むはずがないと思うかもしれない。しかし、痛みのあるところに無意識に手を当てていた経験は誰にでもあるだろう。そして、意外と知られていないのが、触れることで人との繋がりを感じ、不安や悲しみなどが和らいでいくことだ。そのためには、触れ方にちょっとしたコツがある。
人にそっと触れてみてほしい。相手の温度や質感、呼吸、鼓動を感じるだろうか。一人ひとり年齢の積み重ねが違うように、それらは相手が身体とともに歩んできた人生そのものが表れている。それを感じることは、肯定も否定もなく、自身の身体を通して相手を受け入れることになる。だから、人との深い繋がりを感じ、感情が和らいでくるのだろう。
古い日本語では、手のことを「た」と呼んだそうだ。発生学的に見ると、受精卵から細胞分裂して人の形になるまでの間に、手は胸から生えてくるが、昔の人もまた心(胸)の延長として手を捉えていた。だから、手のひらのことを「たなごころ」というのだろう。手を身体に添えることは、すなわち「心を添える」ことだ。しかし、心を添えることは、相手を心配したり、癒してあげようとしたりすることではない。手を添え心を添えることは、特別な何かをしようとするのではなく、ふっと身体の力が抜けた状態で、相手に興味を持って、ただ感じることだ。感じてあげるだけで人の身体は変化する。そういったことをワークショップでは伝えた。
当たり前にあるものが失くなって初めて、そのものの価値に気づくように、結果や効率に気を取られていると、こういったシンプルなことに価値を見出しにくい。世の中が激変している今こそ、家族で身体に手を当て合うことが大切だと思っている。これを読んで家族やパートナーに触れてみようとする方がいると、とても嬉しい。