良いも悪いも含めて、人々が今ほど世の中のニュースを欲する時代はありません。緊急事態宣言が発令され、外出を自粛する日々。感染者減の一報に胸をなで下ろし、政府の対応に憤りをおぼえもします。時代が不穏だからこそ、世の中の動きへの興味は尽きませんが、米国STA認定コーチで「セドナメソッド」の普及に努める安藤理さんは、今こそ自らの内面に目を向けるときと話します。〝アフターコロナ〟にもつながる思考のあり方について、話をうかがってみました。
セドナメソッド認定コーチ
安藤 理(あんどう おさむ)
兵庫県神戸市出身。8年間の東京暮らしを経て、1998年に八ヶ岳南麓・山梨県北杜市に移住。米国STA認定セドナメソッド・コーチ。翻訳書『人生を変える一番シンプルな方法―セドナメソッド』(一時欠品中。2020年6月中旬販売再開予定)監修者。セドナメソッドの通話セッションやオンラインセミナーをおこなっている。2017年からプレマルシェ・アカデミー(京都)、プレマルシェ・スタジオ中目黒(東京)でセドナメソッド講座を実施(コロナ収束後に再開予定)。神戸で対面セッションを実施している。
公式ホームページ:https://andoo.info
情報にとりつかれすぎると負の感情で満杯になってしまう
――安藤さんには「らくなちゅらる通信」2017年1・2月号でも、お話を伺いました。3年が経過した現在(取材したのは2020年4月25日)、日常の光景は、大きく様変わりしてしまいました。
安藤 新型コロナウイルス感染拡大を防ぐべく、政府は全国に緊急事態宣言を発令しています。国民は外出の自粛を求められて、自宅で過ごす時間が増えました。仕事はリモートワークが中心、プライベートでは、会いたい人ともビデオ通話でコミュニケーションを取らざるをえないいま、人々が他者に向けていた関心が、どうなるかに注目しています。
――在宅でも、インターネットを通して、さまざまな情報やモノが入手できる時代です。自由な外出が不可能だから、他者と直接会うことができないからといって、人々の他者への関心が薄らぐような現象が起こりうるのでしょうか。
安藤 スマートフォンひとつで、なんでも情報が入手できる時代。新型コロナウイルス感染拡大に関するニュースにも、いくらでも目を通すことが可能です。もちろん必要な情報は知らなければなりませんが、家にいる時間が増えたいま、あまりにニュースを追ってしまう、他者の情報の収集に取りつかれてしまうと、怒りや憎しみといった負の感情で、自らの心のなかが、いっぱいになってしまう可能性があります。
――たしかに、それはあるかもしれません。では外出自粛を強いられるなか、負の感情に押しつぶされないようにするためには、いかなる行動をとるべきなのでしょうか。
安藤 「ステイホーム」が叫ばれるいまだからこそ、自分の内面に目を向けてみるのがいいと思います。
たとえ負の感情が押し寄せたとしても、自由に外出できるときであれば、容易に解消することも可能です。会社で同僚に愚痴をこぼしたり、友達と飲みに行って相談するなどのコミュニケーションがとれるからです。
しかしいまは、気軽に外出することもはばかられる状況。くわえて、たとえスマートフォン越しといえども、外の世界や他者に注意を向けすぎてしまうと、心のざわめきを抑えきれなくなってしまうこともある。ならば、いっそのこと、自分の内面を省みる機会にしてみるのがいいと思います。
5月、6月と、また初夏から夏へ季節がうつろうと、すべての都道府県で外出自粛要請が解かれる可能性もあります。それでも以前のように、すぐに晴れやかな気持ちで繁華街へのおでかけを楽しんだり、他人と向き合って話したりすることが難しいかもしれません。外の世界や他者に強い関心を向けるには、厳しい時代は続きます。
いずれにしても、部屋で落ち着いて、自分の内面を見つめなおす時間を持てる人のほうが、どんな状況でも、感情や気持ちの自由度を高めることができるのではないでしょうか。
――前回、安藤さんをインタビューした際には「思うように動けないのはなぜ?」というテーマで、自身が米国STA認定コーチを務める「セドナメソッド」について取材しました。ここまでのお話を踏まえると、シンプルな自問自答で心を整える「セドナメソッド」の手法は、多くの人が自分の内面を見つめなおす際の有効な手段に感じられます。
不安がすぐに消えなくても解放を続けると小さくなる
安藤 「セドナメソッド」では、きわめて単純な手順で、感情の解放を試みます。本来人間は自由な、感情のない状態で思考するほうが、冷静な行動がとれるといわれています。しかし理想どおりにはいかないのが人間。ゆえに「セドナメソッド」では、まずはその瞬間によぎった感情の解放を試みます。
――その感情の解放を経れば、気持ちも思考も自由度が増すのですか?
安藤 その可能性はおおいにありますが、まずはその瞬間の感情に注意を向けることが大事です。「セドナメソッド」の感情解放では、未来のことまで、深く考える必要はないからです。その瞬間の感情にフォーカスするだけなので、時間も手順も、それほど要しません。また、もし感情が解放できなければ、今日は不可能だということを認めて、次の日に挑戦してみればいいのです。
――「セドナメソッド」の感情解放を言葉でたとえるなら、どのような感覚といえますか?
安藤 ペンが手から離れる感覚です。私たちが心のなかの不安に目を向けている状態は、ペンを握りしめている動作に、たとえることができます。不安が大きければ大きいほど、握力も強くなってしまい、握る手がわなわなと震えてしまいます。けれども逆に、その握力を少しずつ緩めていけば、自然とペンは手からこぼれ落ちてしまいます。この手からペンが離れる過程こそが「セドナメソッド」における感情解放で、私はこれを「手放す」と表現しています。
人間は手放すために握力を弱めますが、これはそれほど頭で考えなくとも実現できる動作です。それに比べて、人間が直に不安と向き合うと、精神的な苦痛を伴う場合があります。胃がキリキリするような感覚を覚えることもあるでしょう。しかし「セドナメソッド」で採用するシンプルな自問自答の繰り返しでは、不安と無理なく向き合えるので、いつしか、まるで自然にペンを手放すかのように、無意識に自らの感情を解放することができるようになるのです。
――手順がシンプルで、しかもいつでも取り組める。気軽に実践できるのに、自然に感情の解放が起こるのは、どうしてでしょうか?
安藤 あくまで〝いま〟の気持ちに注意を向けながら、感情の解放を試みるからです。そのとき自覚している気持ちをだけ見つめて、手放すことを目標としています。将来の展望は、まずは考えなくてもいいのです。
注意を向けた気持ちが、どうしても自分から切り離せないものであるなら、「手放せない」ということをまず認めるだけでかまいません。たとえそれが不安、マイナスの感情であったとしても、なかなか忘れられないことは、人間なら誰しもありうることです。むしろ感傷的な気分に浸っていたいときもあります。
「セドナメソッド」で感情解放を繰り返すと、だんだんと負の気持ちに絡めとられる機会も減っていきます。ただ不安や執着などの感情が、すべてすぐ消えるわけではないという理解も大切です。たとえ不要だとわかっていても、なかなかモノが捨てられないという人がよい例で、負の遺産であっても、ふいになくなってしまうと、人間は気持ちが落ち着かないものなのです。それでも感情解放を習慣にして続けると、負の感情が徐々にポジティブなものに変換されていくのです。
たとえペンを手放しても、ペンが消えてしまうわけではないように、感情を解放しても、不安はすぐそこからはなくならず、存在しています。たとえ感情の解放ができても、しばらくは心のうちに残る負のイメージを認めながら、うまく付き合うことも重要になってきます。
米国STA認定コーチである私は、監修を手がけた書籍『人生を変える一番シンプルな方法―セドナメソッド』にのっとって、セッションをおこないます。具体的な手順に興味のある方は、ぜひ参考にしていただければと思います。
――ところで、安藤さんは、もともと東京都内で会社勤めをされていたと聞きました。なぜ米国STA認定コーチとして「セドナメソッド」のセッション等をおこなうようになったのでしょう?
いまの自分を認められたら他者を許容することもできる
安藤 大学を卒業して、コンピューター会社にプログラマーとして就職しました。当時は1980年代半ばで、コンピューター業界は景気もよく、仕事にもやりがいを感じていました。
ところが、時の流れとともに、仕事のレベルもどんどん上がってしまい、自らの力不足を感じるようになりました。翌日の出社を考えると、さまざまなことが気になって眠れない、最終的には「今晩寝てしまうと、このまま会社に行けなくなってしまうのではないか」と不安に感じるようになりました。
この状況をなんとかせねばと思って出会ったのが、自律神経訓練法や瞑想です。書籍に目を通したり、週末にセミナーに足を運んだりして、実践するようになります。実はそれまでは運動で汗を流したり、好きな音楽を聞いたりして、ストレスをやり過ごしていました。しかし、すでに趣味を楽しむだけでは、リフレッシュできなくなっていたのです。
瞑想を試してみると、驚くほど心の質が高まって、生き方、ものの見方までもが変わるようになりました。おかげでメンタルも整って、仕事も順調に進むようになったのですが、今度は自律神経訓練法や瞑想を極めたいという思いが強くなってきます。副業として瞑想の個人セッションや講座をこなしながら、退社後は八ヶ岳南麓に引っ越して、まずは人生の方向を明確にするプログラム 「ソース」のトレーナーとして、フリーランスで本格的に活動を開始します。
「セドナメソッド」に注目するようになったのは、2003年のことです。シンプルな手法であることに、興味を覚えました。原書と自習教材で習得後、アメリカで講習を受け、2004年からは個人セッションを始めました。2008年には出版社から打診をいただき、日本語版に監修者として関わることになります。
――自らの人生経験が「セドナメソッド」との出会いにつながったのですね。いま米国STA認定コーチの安藤さんから見て、ストレスを抱えた会社員時代の自分は、どのように映りますか?
安藤 不安に駆られて、考えすぎていたのでしょう。思考しないことも、ときには必要なのです。そして、いまは私が会社員だった時代とは違って、情報量がすさまじい。際限なく外部、他者と接触できるので、ますます人が、思考を一時停止する時間がなくなっています。
――そう考えると、冒頭で安藤さんが述べたように、「ステイホーム」が叫ばれるいまは、情報との接触や自らの思考を止める好機なのかもしれませんね。
安藤 そう、自分の内面を見つめなおすチャンスなのです。「セドナメソッド」なら、思考なしで取り組める。瞑想や呼吸法もいいでしょう。考えるのではなく、自分の心を感じることが大切です。
ときにはニュース報道や他者の言動に、不快な感情が起こるかもしれません。そのときも考えるのではなく、気持ちに目を向けましょう。すぐに解放するのは難しいかもしれませんが、時間がたつうちに不安は軽くなって、消えるはずです。
店舗の入口にあるアルコール消毒液を思い出してください。噴射すると濡れますが、手を開くと乾いていく。人間の悩みも、こんなふうにいつかは解き放たれるのです。そして心の余裕ができれば、他者を許容することができる。外出自粛が叫ばれるいまだからこそ、自分の内面を見つめなおしましょう。必ず次の時代を生きる糧になるはずです。