2月は立春を迎え、二十四節気における春がはじまります。でも春はまだ暦の上だけ、という寒さ。妊婦さんも小さな赤ちゃんも、風邪やインフルエンザの予防に配慮が必要な時期が続きます。赤ちゃんを守る仕組みを見ていてつくづく思うのは、自然はよくできているなぁということ。はじまりの月に、誕生を言祝いでみたいと思います。
母乳が腸内フローラを作る
赤ちゃんは、経膣分娩で産まれる際に、母親の膣内に存在するビフィズス菌や乳酸菌にさらされます。不思議な気がしますが、それ以前の赤ちゃんの腸には腸内細菌がいません。生まれるときに膣で受け取った菌に、初乳で栄養が与えられ、赤ちゃんのまっさらな腸内にフローラが育ちます。産後、他の何よりも先に赤ちゃんにおっぱいをあげることで、腸内に赤ちゃんを守る膜がはると助産師さんに教わりました。赤ちゃんは母乳により腸内細菌を育み、腸管粘膜のバリアを作っていきます。体内の免疫細胞の約7割は腸に集まっているといわれます。母乳を飲むことで、赤ちゃんは自前の免疫システムを作り出していきます。
母乳は環境に合わせた完全オーダーメードの生きた食品です。母子の今の環境に必要な免疫物質を、母体はせっせと作り出しては赤ちゃんに与えています。母乳を通して、赤ちゃんは母親の免疫物質を腸に受け入れるのです。だから、母乳で育っている赤ちゃんは、そんなに簡単に風邪をひきません。
生後半年間の赤ちゃんは守られているとよくいわれます。実際、それくらいを過ぎると、きょうだいがいる子の場合、少しずつ風邪が移るようになります。だからなのか、生後半年は、人や国によっては断乳の目安になる時期となっています。
継続にも意味がある
では、生後半年を過ぎた赤ちゃんにとっての母乳は「薄くて」意味をなさないのかというと、そんなことはありません。母乳を作る乳腺組織と母体の腸管の免疫細胞には情報をやり取りする仕組みがあり、母子のうち赤ちゃんだけが何かの菌に感染したとき、赤ちゃんはだ液を通じて自分が感染した細菌の情報を母親に伝えます。母親は授乳の際にその情報を受け取り、自身の免疫システムを使って素早く抗体を作り、母乳で赤ちゃんに届けています。おなかの中にいるときはヘソの緒でつながり、血液を通して免疫物質を届けていた関係は、産後も母乳を通して継続されています。すごいですよね。
母乳に含まれる免疫物質の量は、出産後4か月頃から減っていくといいます。しかしオランダのある研究では、生後6か月まで完全母乳栄養(完母)の子は上気道感染症※の発症リスクが63%低減したそうです。生後4か月まで完母、以降母乳と人工栄養の混合の場合は、同リスクが35%低減。一方、生後4か月まで完母で以後は断乳した子や、生後6か月まで混合の子の同リスクは、人工栄養だけの子どもと差がなかったそうです。このように、母乳は直接的に働き、中止すると効果は短期間で消えますが、子どもが小さいうちは、心身サポートとしてのおっぱいはあってもいいんじゃないかと思います。
お母さんの一番大きな仕事の一つが、おっぱいをあげることです。ジェンダーバイアスにとらわれる局面ではなく、哺乳類の一員として、可能な人は授乳してあげてください。とはいえ、状況が異なる人は、悩まずミルクをあげてくださいね。その状況も、今その瞬間にはわからない、大切な理由があるはずです。