しなやかな影響力の講座でのことです。「あなたの理想の週末」を尋ねると、働くお母さんであるNさんは「週末に4歳の娘とゆっくり時間を過ごすこと」と答えてくれました。「それってどんな一日なんですか?」と続けると、Nさんはキリッとした表情で答えました。「朝早いうちにやるべき家事を終わらせ、それから調べておいた公園で娘と遊びます。ランチはその近くで美味しいところを調べておいて……」。途中から私はなんとも窮窟で落ち着かない気分になっていました。
良くできた計画の落とし穴
たしかに良くできた計画なんです。でも私にはそれがNさんの理想の週末とは感じられません。そこでさらに質問しました。私「その公園やお店はいつ調べるんですか?」Nさん「金曜の隙間時間にやります」私「Nさん、慌ただしくはないですか? そのスケジュール。本当にゆっくり過ごせそうです?」。すると、Nさんはハッとして「あ! これではいつもと同じですね。全然リラックスできない気がします」と苦笑いしてしまいました。
Nさんは仕事でお嬢さんと十分な時間を過ごせず申し訳なく思っていました。そのため、「(私が)娘とゆっくり過ごす」ことと、「娘が喜びそうな計画を立てること」がいつの間にか入れ替わっていたのです。その結果、いつも詰め込んだ予定をこなし、追われてイライラ、ぐったり。これって仕事でも家庭でも、知らず知らずに陥りがちではないでしょうか。目的と手段が入れ替わったことは、あとから考えればわかります。でも、私たちはどうしてそんなことを繰り返すのでしょうか?
本音に気づく最初の一歩
多くの場合、「大切にしたいこと」そのものに気づいていないために起こります。誰にでも「大切にしたいこと」はあります。でも私たち自身がそれを見失っていると、方法や手段ばかりが一人歩きして、いつまでも満足感や充実感を得られなくなってしまいます。娘さんと過ごす週末で大切にしたいのは「自分も娘も楽しむ」ことだったと気づいたNさんは、当初とまったく違う過ごし方をしたと報告をくれました。
「いつもなら自転車で移動するところ、手をつないでおしゃべりしながらゆっくり歩いてみました。想像以上にゆったりした気分になり、おしゃべりも楽しく、とても贅沢な気分でした」「あまり時間を気にせずに流れに任せてみたんですが、そんなこともかなり久しぶりで、リラックスできました。感覚としては、私が人生で求めていることに近いように感じました」。なんて嬉しいことでしょう!
方法や手段は合意できないこともありますが、「大切にしたいこと」には共感してもらえることが多々あり、応援される可能性も大です。なぜなら、ほとんどの人にとって、大切なこと(楽しさ、健康、思いやり、違いを尊重しあう、自由など)というのは普遍的な価値観なので、性別や年齢や相性などにあまり左右されず共感できるからです。自分が大切にしたいことがなにかを知り、日頃から大切にし始めると、他の人がなにを大切にしているのかにも気づけるあなたになります。その人の表面的な言動ではなく、心から大切にしたいことがわかると、あなたも相手も共感し、互いが大切にしたいことを大切にし合える関係性が築けるのです。
まずは問いかけることから始めてみませんか? 「私(この人)が大切にしていることはなんだろう?」と。この質問を続けると、手段・方法ではなくその人が大切にしたいことが垣間見えてきます。
本音に気づくのは怖くもあります。でも、自分や相手が大切にしていることそのものが本音なんだとわかると、そんなに怖くなくなってきます。そうすると、思いやりや深い理解による共創・共生という影響の輪があなたの周りに広がり始めます。