去る1月14日、大阪弁護士会館にて、大阪弁護士会と、障害と人権全国弁護士ネットの共催するシンポジウムが開催されました。
タイトルは、「優生保護法のこれまでとこれから~なぜ放置されてきたのか……「優生」が私たちに問い続けるもの~」。このコラムでも何度か取り上げてきた、優生保護法をテーマとするシンポジウムです。具体的には、被害を受けた当事者の方の発言や、全国弁護団の弁護士の報告、研究者の方の発表などがあり、優生保護法による被害の歴史と、被害者の人権回復の現状について、学ぶことができました。
他方、このシンポジウムでは、優生保護法の問題をテーマとしたダンスのための時間が設けられました。私自身、優生保護法被害の全国弁護団と京都弁護団の一員ではありますが、今回のシンポジウムでは、ダンサーとして作品を作り、出演することになりました。
以下では、この作品について、簡単にご紹介したいと思います。
作品の内容
今回の作品を共作し、共演したのは、舞踏家の由良部正美さんと、ミュージシャンの佐々木ゆかさんです。
作品は、まず、舞台上に複数の椅子が並べられた状態でスタートします。そして、紺色のシャツとズボンを着用した私が舞台に上がり、舞台上の椅子を、その上に誰かが座っているようなイメージで、少しずつ移動させます。そして、時折、椅子の上にいる誰かとコラボレートするように、静かに踊ります。
そうしているうちに、白いドレスを纏い、全身を白く塗った由良部さんが客席側からゆっくりと現れ、柔らかく移動しながら、舞台に上がります。現世を生きる私に対し、由良部さんはこの世ならざる存在のようです。
そして、舞台の上で、現世とこの世ならざる世界が重なり合いますが、私と由良部さんは、それぞれ互いの存在に明瞭に気づくことはなく、見えない存在が近くにいるらしいことを感じながら、それぞれに踊ります。
その後、私が椅子を無造作に積み上げ、あたかも墓標のようなオブジェを作り上げます。そして、最終的には、椅子を弧のような形に並べ、私と由良部さんが座ったところで、作品は終了します。
この間、佐々木さんは、それぞれの場面にあわせて、ときには生の歌声を交えながら、即興でピアノなど複数の楽器を演奏してくれました。
作品の意味
一般に、作品の意味というのは、観る方がそれぞれ自由に生成するものだと思います。ただ、作り手には作り手のイメージがあり、私は、今回の作品では、「この世に生まれ得なかった命」をイメージしていました。
以前紹介した優生保護法被害をめぐる裁判において、各地の裁判所は、強制不妊手術を受けさせられた方は、子を産み育てる権利を奪われたと判示しています。すなわち、被害者は、手術を受けた方です。
私もこの点に異論はありませんが、加えて、被害者の方が子を産み育てる権利を奪われたことにより、「この世に生まれ得なかった命」があり、その命もまた被害者なのではないかという思いが私のなかにありました。
もちろん、法的には、「この世に生まれ得なかった命」を権利の主体と認めることはできないでしょう。しかし、法的に表現できないことであっても、舞台作品であれば表現することができるのではないか。今回の作品には、そんな思いもこめられています。
ともあれ、今回ダンスの機会をくださった主催者の方々、観客の皆さま、共演者の由良部さんと佐々木さんに、この場を借りて御礼を申し上げたいと思います。