先日、一般の方向けに、家族法の基礎についての講義をする機会をいただきました。
そのとき、レジュメの準備をしながら改めて気づいたのは、家族法の分野において、憲法に関する判例が少なくないことです。特に、当初憲法に適合するとされていた法律が、時代を経て憲法違反と判断される例が複数存在することも注目に値します。
このことは、まず、憲法自体が、その時代における市民や裁判所の人権感覚と無関係でないことを意味しており、また、私たちの生活と密接に関わる家族法が、憲法や、その時代の価値観・人権感覚とともに変遷してきたことも意味しているでしょう。
家族法は、このように、時代の価値観や人権感覚の変遷が刻まれた分野であり、法律があたかも生き物のように流動するものであることを感じられる分野でもあると思います。
今回は、ご存じの方も少なくないかもしれませんが、かつては憲法に適合するとされていたものの、時代を経て憲法違反と判断されるに至った家族法の規定を一つ、ご紹介します。
非嫡出子の相続分
前提として、家族法の位置づけについて簡単に紹介します。日本の法律のなかに、家族法という独立した法律が存在するわけではなく、家族法は、民法のなかに存在しています。そして、家族法は、婚姻や親子などの身分関係について定める親族法と、相続のあり方を規定する相続法により構成されています。
今回ご紹介する判例は、相続法に関するものです。具体的には、非嫡出子の相続分に関する規定です。
法律上、婚姻している母から生まれた子を嫡出子、婚姻していない母から生まれた子を非嫡出子といいますが、かつて、民法900条4項但書は、非嫡出子の相続分につき、嫡出子の相続分の2分の1と定めていました。
この規定については、古くから、嫡出子と非嫡出子を差別する規定であり、違憲ではないかと指摘されていました。しかし、平成7年7月5日、最高裁判所は、この規定は合憲であると判断しました。その理由は、この規定が、法律婚の尊重と非嫡出子の保護の調整を図るものとして、合理的根拠があるというものでした。ただし、15名の裁判官のうち、5名の裁判官は反対意見を述べました。
この最高裁の決定の後も、この規定の憲法適合性は何度も問題となり、平成25年9月4日に至って最高裁判所はついに判例を変更し、この規定が憲法違反であると結論づけました。
その理由づけは、概ね以下のとおりです。すなわち、婚姻・家族形態の多様化とそれに伴う国民の意識の変化や諸外国の立法の趨勢など、種々の事柄の変遷を考察すると、家族という共同体のなかにおける個人の尊重がより明確に認識されてきたことが明らかであり、父母が婚姻関係になかったという、子にとっては自ら選択や修正の余地のない事柄を理由としてその子に不利益を及ぼすことは許されず、子を個人として尊重し、その権利を保障すべきであるという考えが確立されてきているというものでした。
この最高裁決定を受け、旧民法900条4項但書は改正され、規定自体が削除されました。
憲法と家族法
こうして憲法違反と判断された規定もある一方、現在も、憲法適合性をめぐり、裁判で争われている規定が多々あります。例えば、夫婦同姓を強制する民法の規定や、異性婚しか許容しない規定などです。
こうした規定は、私の感覚からすると、現時点でも憲法違反であると思われますが、いずれにせよ、家族に関する法制度を憲法との関係から考えてみることは、大切なことだと思います。