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ながれるようにととのえる

身体の内なる声を味方につけて、生きる力をととのえる内科医、鍼灸をおこなう漢方医のお話

やくも診療所 院長・医師

石井恵美 (いしいえみ)

眼科医を経て内科医、鍼灸をおこなう漢方専門医。漢方や鍼灸、生活の工夫や養生で、生来持っている生きる力をととのえ、身体との内なる対話から心地よさを感じられる診療と診療所を都会のオアシスにすることを目指す。
やくも診療所/東京都港区南麻布4-13-7 4階

「治る」とは、過去の自分に戻ることではない?

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暦のうえでは秋に入ったものの、まだまだ暑さが身にこたえる時期だろう。

東洋医学では、夏は心臓、秋は肺と大腸の季節といわれている。しかし日本の夏は湿度が高いため、膵臓や胃にも負担がかかりやすい。日本の漢方薬はそうした風土を考慮し、湿を減らす工夫がなされている。例えば夜泣きの薬である「抑肝散」も、日本に伝わった際、湿を減らし消化を助ける陳皮と半夏を加えた「抑肝散加陳皮半夏」として、より日本人の体質に合うよう一工夫された経緯がある。

暑くて湿気の多い日本で夏を乗り切るには、しっかり汗をかいて身体の熱を逃がすことが欠かせない。だが、だらだらと汗をかけば良いというわけでもなく、心臓の不調や甲状腺ホルモンの異常があると、かいてはぐったりしてしまう「すっきりしない汗」になりやすい。西洋医学でも汗のトラブルは解明しきれていない部分が多いが、汗という防衛機能を味方につけることは、残暑を乗り切る大切な「作戦」になる。しかし、それが言葉以上に難しいのが現実だ。

また、夏風邪は冬の風邪よりもずっと厄介だ。寒気や熱、胃腸症状、腰痛や喉の痛みなど、自覚症状自体は冬と変わらない。しかし冬なら、暖かくして葛根湯などを飲み、うっすら汗をかけば風邪の邪気を追い払うことができる。一方、暑く湿度の高い夏は、すでに毛穴が開いてじわっと汗をかいているため、うっすら汗をかく程度では治まりにくいのだ。外気も体内も暑いなか、冷房下で熱を下げていくのは思いのほか難しい。汗や排泄によって体内の炎症が落ち着くまでに時間がかかり、結果として冬よりもずっと大変な思いをすることになる。そこへ疲れや持病が重なれば、夏バテや酷暑の影響をさらに受けやすくなってしまう。

そう考えると、この酷暑のなかで「生きているだけ」でも、私たちの心身は相当がんばって自分を支えてくれているのだ。そう思うと個人的には、「どうせ風邪を引くなら冬に限る」とつくづく思ってしまう。

医者だって、弱さを抱えたひとりの人間

実は昨年の夏、私自身がまさにこの夏風邪とオーバーワークから体調を崩し、四苦八苦していた。もともと炎症体質だったこともあり、疲弊した身体で風邪の邪気をもろに受けてしまったのだ。初期対応を見誤って治しきれず、秋まで続いた暑湿にあたり、冬まで燻る炎症を引きずって悪化の一途をたどってしまった。

更年期真っ只中という年齢も重なり、自分の心身を整えることに激しく難渋した。「医者なのに自分の身体すら簡単に治せないのか」と思われるかもしれないが、医者だって弱さを抱えたただのひとりの人間なのだ。自分自身がこれほど苦労する状態になってしまったことに、正直、深い苦悩を抱えていた。

鍼灸の古典である『黄帝内経』の「素問・四気調神大論」には、こう記されている。「夏は万物が芽吹き、陽気が開花する季節。体内の老廃物や毒素を汗とともに皮膚から外へ散らすのが良い。これに背いて熱が胸にこもると、秋に高熱と悪寒に襲われ、秋に治しきれないと冬にはさらに重症化する」と。
振り返れば、私の状態はまさにこの言葉通りだった。しかし、「自分にできることを毎日、地道に地味に続けていくしかない」と腹を決め、少しずつ身体を整えて今に至っている。

「治る」とは、過去の自分に戻ることではない

かつての自分と比較して絶望するのをやめ、今の自分をまるごと受け入れること。「これが今の自分なのだ」とすべてを受け入れたとき、本当の回復が始まるのかもしれない。今年の秋も相変わらず暑さには参っているが、そんなことを感じながら、気持ちだけは少しほっとして過ごしている。

- ながれるようにととのえる - 2026年9月発刊 vol.228 -, ,

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