数か月に一度、定期的に会う友人がいる。中学生のころに知り合ったH君だ。なにがきっかけで仲良くなったのか、まったく思い出せないが、なんやかんやで30年近い付き合いになる。H君は昔から明るく前向きな性格だったが、ただ少し楽観的すぎるところがあった。
忘れもしない高校受験の日。女子はミニスカートにルーズソックス、男子は腰パン全盛期の時代、その日ばかりは皆きっちり真面目仕様で、もれなく私も流行を封印し受験に挑んだ。受験会場を歩いていると、後ろから私を呼ぶ声がした。振り向くとH君がコンビニ袋を片手に立っていた。「あれ? かばんは?」と聞くと、「これやで」と笑顔で手の袋を持ち上げて見せてくれた。
予想どおり、H君は受験に落ちた。その後、彼は別の高校へ進学したものの、ローマ字を書く練習から授業がスタートしたこと、同級生が毎日喧嘩をしていることに愕然とし、「ここにいてはいけない」と数か月で自主退学。ほどなくして大工の見習いとして働き始めた。
それからも変わらずみんなで集まって遊んではいたものの、話題は高校生活のことが中心。私にとっては楽しい思い出だが、後になって彼は「話してる内容が全部楽しそうで、めちゃくちゃ羨ましかった」と話してくれた。そして「なんでもっと受験がんばらへんかったんやろうって、ほんまに後悔した」とも話していた。
そんな彼も今では会社を立ち上げ、社長兼現場の職人として忙しく働いている。さらにシングルファザーとして子ども2人を育てながら学び続け、先日、難関資格試験に見事合格した。念のため確認したら、今回はちゃんとかばんを持って行ったそうだ。
今までH君の口から、後悔の言葉を聞いた記憶はほとんどない。きっと、高校の一件は長く消えない悔しさとして残っていたのだろう。彼はそれを腐る理由にするのではなく、努力の糧にし続けた。「あのときこうしていれば」と思う過去があっても、人はちゃんと前へ進めるのだということを教えてもらった。
合格発表の後、久しぶりに会ったH君は、自信に満ちていてとてもまぶしかった。遠い存在になったと少しおセンチになったのも束の間、帰り際、H君は買ったばかりの車を外壁にゴリゴリとこすった。とても悲しんでいた。浮かれすぎてはいけないこともまた、彼から学ばせてもらった。なんともありがたい存在である。
お客様サポートチーム
清水 伊都子(しみず いつこ)
2021年入社。現在2歳の男の子の子育てに奮闘中。息子の影響で、まったく興味のなかった車や電車に囲まれる毎日。今の夢は「ゆふいんの森」に乗ることです!
