先月号のコラムでは、優生保護法被害をめぐり、全国で国家賠償請求訴訟が提起されていることをご紹介しました。そして、民法の除斥期間の規定の適用により、これまで、被害者の方の請求が斥けられてきたことをご紹介しました。
ところが、令和4年2月22日、大阪高等裁判所の控訴審判決において、ついに被害者の方の国家賠償請求が認められました。さらに、これに続いて、令和4年3月11日には東京高等裁判所の控訴審判決においても、被害者の方の請求が認められました。
そこで、今月号は大阪高等裁判所の判決を、そして来月以降に東京高等裁判所の判決を、それぞれご紹介したいと思います。
除斥期間の適用制限
除斥期間の適用について、大阪高裁判決は、まず、除斥期間の規定は、「不法行為をめぐる法律関係の速やかな確定を意図して、一定の時の経過によって法律関係を確定させるため、請求権の存続期間を画一的に定めたものと解される」としたうえで、「このような除斥期間の制度目的・趣旨に鑑みれば、被害者側の固有の事情を考慮して除斥期間の規定の適用を制限するような例外を認めることは、基本的に相当ではない」と述べました。
しかし、続けて大阪高裁判決は、「もっとも、このような除斥期間の規定も例外を一切許容しないものではない」と述べました。
すなわち、大阪高裁判決は、除斥期間の適用が例外的に制限される場合があることを認めました。
優生保護法被害について
そうすると、被害を受けた方について、除斥期間の適用が例外的に制限されるかどうかが問題となります。
これについて、大阪高裁判決は、まず、被害者の方たちが長期にわたり訴訟を提起できなかったのは、「自己の受けた不妊手術が旧優生保護法に基づくものであることを知らされず、平成30年まで、国家賠償を求める手段があることを認識していなかったためであるが、更にいえば、優生手術の対象となった障害者に対する社会的な差別・偏見やこれを危惧する家族の意識・心理の下」、被害を受けた方たちが、「訴訟提起の前提となる情報や相談機会へのアクセスが著しく困難な環境にあったことによるものといえる」と述べました。
そして、優生保護法の規定による人権侵害が強度であることや、憲法の趣旨を踏まえた施策を推進していくべき地位にあった国が、むしろ「障害者等に対する差別・偏見を正当化・固定化、更に助長してきた」などとして、「除斥期間の適用をそのまま認めることは、著しく正義・公平の理念に反するというべき」であるとし、「訴訟提起の前提となる情報や相談機会へのアクセスが著しく困難な環境が解消されてから6か月を経過するまでの間、除斥期間の適用が制限されるものと解するのが相当である」としました。この「6か月」というのは、時効に関する規定の「法意」によるとされています。
そして、結論として、大阪高裁判決の事案の被害者の方たちについては、この「6か月」が経過していないとして、請求が認容されました。
扉は開かれた
国は、この大阪高裁判決を不服として上告しましたが、この判決は、優生保護法被害に関する国家賠償請求訴訟において、はじめて被害者の方の請求を認容した重要な判決です。この判決にしたがうと、「6か月」の経過後に提訴した方が救済されない可能性があるとも指摘されていますが、少なくともこの判決により、優生保護法被害の回復のための扉が開かれたことは、間違いありません。