私の師匠、エドウィン・コパードには愛息子が二人います。エドウィンが日本で急に亡くなった二週間後、彼らはカナダから来日しました。今回はそのときのエピソードをご紹介します。
短い滞在でしたが、彼らは父親が愛した日本を積極的に体験しようとしていました。兄弟だけで遠出することもあり、そのたびに
「みわ! 日本はすごい!」
「すべてが秩序立っているよ!」
「父さんが言っていたとおりだ」
と、新鮮な驚きをまっすぐに表現してくれました。
例えば、街角のカフェのクオリティについて、
「あんなに高品質のペイストリー(菓子パン)が、お手頃価格でどこでも食べられるなんて信じられない! 自国カナダならホテルレベルだよ」
と興奮して話してくれました。そんな二人に、私は真顔で「日本は建国から約2700年だからね」と言うと、彼らはしばらく絶句したあと、思いっきり吹き出してしまいました。
「2700年⁉ まさかだろ!」
「カナダなんて、まだ150歳だよ」
圧倒的な違いに笑うしかなかったのでしょう。
かれら兄弟に、エドウィンと深い縁があった日本という国の深遠さを感じてもらいたいと思い、
「日本には創業300年、500年というお商売が数多く存在するんだよ」
「創業100年くらいなら驚きもしない」
と続けると、彼らはあり得ないと言わんばかりに大爆笑し、「理解不能だ!(笑)」と最大の敬意を表してくれました。そして、「どうりで、父さんが愛したわけだ」と微笑み合いました。
よみがえれ、2700年のDNA
話は少し変わりますが、私が滞在している里山がある茨城県では、8世紀を起源とする「石岡まつり」が毎年9月中旬におこなわれます。この祭りは、千年以上の歴史を持つ「常陸國總社宮」を中心に、豊作祈願のためにおこなわれ、地元の方々により大切に守り継がれてきました。日本全国各地に、こうした歴史ある祭りがまだまだ存在します。
エドウィンは、日本を「気高きサムライの国」と敬意をもって呼びました。10年以上来日し続け、1万人近い日本人の声に耳を傾け続けたエドウィンは、映画やメディアのイメージではなく、五感で日本を感じていました。そして、日本人は本来、ちょっとやそっとのことには動じない肚のすわった人々だと信じていました。だからこそ、先行き不透明な荒波のような時代こそ、そのような日本人の野生とも呼べるDNAを取り戻すことが大切だと私は考えています。
その考えに基づき、夫と私は「日本人のDNAスイッチオン!」というテーマで、祭りという日本の伝統と精神にどっぷり身を浸す旅を主催しました。このイベントは、現代の日本人が忘れかけている日本の精神を、まず一人ひとりのなかによみがえらせることを目指しています。
日本には、2700年近い歴史と伝統が根付いています。そうはいっても、近代化に伴い捨ててきた伝統や、今まさに失いかけている伝統もあります。例えば職人技です。あとたった20年で宮大工をはじめ、日本の精神でもある職人技の多くが喪失の危機に瀕しています。一度失ってしまうと復活が困難だからこそ、私たち日本人全体で守り育んでいきたいと、日々考えています。
エドウィンとその息子たちが日本に来て感じた2700年近い歴史をもつ日本への驚きと感動。それは、私たち日本人が普段忘れがちな、自国の素晴らしさを再確認させてくれるものでした。皆さんもぜひ、地元や近隣のお祭りに出向くなど、日本の伝統に触れ、その素晴らしさを再発見してみてください。そして、皆さんと一緒に、次世代に引き継いでいければ嬉しいです。