とても不思議なご縁があり、鹿児島県の過疎地に想像を絶する巨大スーパーを経営し、大成功を収めているAZ(エーゼット)さんと深くおつきあいすることになりました。テレビなどでよく取り上げられているのでAZのことはご存じの方も多いでしょう。
この限られた紙面でAZについて詳しく説明することは難しいのですが、ほかではありえないやりかたで、「ゆりかごから墓まで、大根から車まで」の商品数36万点以上、直近では3店舗で売上280億円を産み出し、まだ成長の途上です。店舗型の小売店では効率を優先し、売れ筋商品を中心に展開をします。各商品の売上動向はPOSシステムが駆使されて緻密に管理され、人から仕入れまで、データで処理されるのが普通です。しかし、AZにはそのようなデータを分析することなく、ほとんどのことが人間の感覚によって運営されています。
AZの運営について、社長の牧尾英二さんの言葉を借りましょう。
(1)効率を無視した膨大な品揃え
(2)買い手の利便性を優先した24時間営業
(3)チラシは年3~6回のみで日替わり・タイムサービスなし。いつでも安い低価格の実施
(4)仕入は地元業者優先
(5)売上目標など数字だけを追わず、数字のための販売会議は無し
(6)マニュアル的な人材教育はしない
など、常識では捉えられないことばかりです。
この「常識外れ」はいったいどこから来るのでしょうか。そして「AZとはいったい何なのか」をじっくり感じるために、私はまるまる5日間のスケジュールを空っぽにして、この不思議の世界に踏み込みました。そこで牧尾さんをはじめ、主要なスタッフの皆さんや店舗で働く皆さんとの会話のなかで、「成功するべくして成功している」ということを強く実感したのです。
牧尾さんが口癖のようにおっしゃいます。「私はもともと自動車開発の人間だったから、小売業は今までも、おそらくこれからもあまり好きじゃないんだ。だから私はいつも小売という仕事をある意味冷めて見ている。」と。そしてAZを創業するときに、過疎地に常識外れの巨大店舗を計画したことで、当初約束されていた銀行の融資が撤回されてしまい、はしごを外されたという経験を「もし『地域に暮らす皆さまの、日々の生活のお手伝い』という思いが天命だとすれば、きっと何とかなると思っていた。」と回想します。
店長や各売り場の責任者の方と会話をしていても、『AZらしい』という言葉が数限りなく飛び出してきます。この『AZらしい』というのは、モットーである『地域に暮らす皆さまの、日々の生活のお手伝い』ということを、言葉だけではなくどこまでも掘り下げて拡大し、追求し続ける彼らの姿勢を象徴しています。しかし、どうもこれだけではなく、深いところで『個々人に生まれながらにして備わっている、使命と可能性=天命に従う』ということと密接に繋がっているようなのです。と同時に、社長は常識や前例に囚われない『永遠の素人』として、現場の皆さん、そして地域のみなさんにできることをゼロ思考で考え続けています。その社長の真っ白さを感じている皆さんは感化され、刺激を受けてAZを心から愛し、また素人である社長を愛して自分の天命を見いだそうとされているようです。
私たちの仕事はAZさんのような膨大な品を提供することではありません。どちらかといえば選びに選んで、扱わない商品のほうがはるかに多いのです。しかし経営においては、あえて売上目標は立てず、緻密な行動指針も、業務マニュアルも作らないでやってきたことで、スタッフから何度もやりにくいと叱られました。統一研修に至っては年1回、定例会議はまったくありません。在庫管理をデータで行わないことで、会計士から苦言を受け続け、売上ランキングも年に1回しか計算しないので、お客さまからも叱られてきました。受注も1件1件を読みながら人間が入力して、後払い可否の判断も担当者の直感に任せています。新聞紙の梱包は、梱包する人の多大な労力で成り立ちますが、やめるつもりはありません。本誌の印刷も、すべて自社内の印刷機で手作業です。そして私はガンガーさんと呼ばれています。
いつも私が考えていた、ただひとつのこと。「私たちのお客さまとスタッフ、そして世界のよりよい未来のためには何が必要か」という素人の視点でした。経営のプロは数字からそれらを読み取りますが、素人は日々のできごとや言葉からただ、感じるだけです。その素人発想にはいかに上手に利益を上げるかということよりも、もっと大切なことがあるように思っています。お客さまは数字の集合体ではないのです。スタッフ、そして商品ですらも、ひとつひとつが唯一無二のただひとつ、そして天命を帯びています。だから私はさらに素人であり続けようと思うのです。