牛乳の主要たんぱく質であるカゼインは、がんを促進させると証明した実験と、牛乳に多量に含まれるカルシウムは動脈硬化、尿路結石、骨粗鬆症のリスクを高めるというお話を前号でしました。
牛乳の栄養素は、丈夫な体や骨をつくる役には立たないのです。

安全な餌を与えられ、のびのびといわゆる昔の方法で飼育された乳牛の乳でさえ、前号に列挙したような疾患のリスクを高めるのですが、安定供給のために飼育された牛乳には、さらに大きな問題があります。

牛乳とホルモン

効率よく搾乳するため、多くの乳牛は強制的に妊娠状態にさせられます。
妊娠中は女性ホルモンの値が高くなりますので、牛乳を飲むと牛の女性ホルモンを一緒に取り込むことになります。
その結果、乳がん、子宮がん、卵巣がん、前立腺がん、卵巣嚢腫、子宮筋腫、月経前症候群、月経痛、男性の無精子症などを引き起こすと考えらます。

女性ホルモンのプロゲステロンは、体内で男性ホルモンのアンドロゲンに分解されます。
男性ホルモンは皮脂の分泌を促進したり角質を固くしたりするという作用があります。
牛乳自体にも脂質が多く含まれますので、皮膚に過剰に分泌された皮脂が毛穴に詰まり、分厚くなった角質に阻まれて排出されにくくなった結果、ニキビとなってしまうのです。
形成外科医として日常的にニキビの診察をしますが、乳製品を止めるように指導するだけで改善した症例に日常的に出会います。

残留農薬と抗生剤

手頃な値段で安定して大量に牛乳を作るとき、多くは農薬を使った飼料や遺伝子組み換えの飼料が使われます。

日常的に手にとる野菜や加工食品は産地や農薬使用、遺伝子組み換えの有無を確認して購入するかもしれませんが、家畜の飼料についてはこれらの表示義務はありません。
残留農薬は体に蓄積されると新生児の先天性異常や発がんのリスク要因となりますし、遺伝子組み換え作物のリスクは未知数です。
強制的な妊娠状態を繰り返させ搾乳される牛は乳房炎になりやすく、劣悪な環境で育つ乳牛は免疫力が落ち病気になりやすいので、それらを予防するために抗生剤が投与されます。

病原菌が抗生物質によって耐性を獲得する「薬剤性耐性菌」の問題をご存知でしょうか。
風邪など軽い症状に抗生剤を乱用することにより、薬の効かない耐性菌が作られ、本当に抗生剤が必要なときに薬が効かず治療が困難になる問題です。
残留農薬や抗生剤は牛乳を介してヒトの体に取り込まれますが、それは直接摂取した場合と同じく危険です。
畜肉を食べることも同じです。

細菌汚染と酸化

搾乳された乳の多くは細菌に汚染されています。
清潔にして搾乳をおこなうのですが、糞便が牛の乳房に付着するので、無菌状態ではありません。
栄養豊富で生ぬるい牛乳は細菌の絶好の培地になるので出荷前に工場で殺菌と脂肪の塊をなくす処理がおこなわれます。
その際に牛乳の脂質の一部が「過酸化脂質（酸化された脂質の総称）」となります。
過酸化脂質は細胞内で活性酸素やフリーラジカルを作り、さらに血中でLDLコレステロールを酸化させ、「酸化LDL」を作ります。
酸化LDLは血管壁を傷つけ正常な血管拡張を阻害します。
血管壁に沈着するとマクロファージ（白血球の一種）が異物とみなして次々に捕食し、その残骸はプラークと呼ばれる粥状の物質となって血管壁にたまり、アテローム性硬化症（動脈硬化症）を引き起こします。
どの血管でも起こりますが、脳で起これば脳卒中、心臓で起これば心筋梗塞となり、乳房の細かな血管に詰まったものは乳がんにも繋がるのです。
乳がんは女性にとって深刻な疾患ですので、別の機会にお話しします。