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特集

インタビュー取材しました。

どう生きるかは 死への意識から始まる
プレマ株式会社 代表取締役 中川 信男

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新年度を迎え、職場や学校、プライベートでも新しいことの多い4月。今春は御代替わりと改元も迎えます。一方で、新しいことの始まりには何かの終わりがある。それが「死と向かい合う」という今号のテーマの背景にあります。このテーマをきっかけに、読者のみなさまに伝えたいことを、弊社代表取締役 中川信男に聞きました。

プレマ株式会社 代表取締役 ジェラティエーレ
中川信男 (なかがわ のぶお)

京都市生まれ。文書で確認できる限り400年以上続く家系の長男。20代は山や武道、インドや東南アジア諸国で修行。3人の介護、5人の子育てを通じ東西の自然療法に親しむも、最新科学と医学の進化も否定せず、太古の叡智と近現代の知見、技術革新のバランスの取れた融合を目指す。1999年プレマ事務所設立、現プレマ株式会社代表取締役。保守的に見えて新しいもの好きな「ずぶずぶの京都人」。

リセットから新しいことが始まる

―今号のテーマは「死と向かい合う」です。4月という新しい季節に、なぜこのテーマなのでしょうか?

中川 『らくなちゅらる通信』のテーマは、7月号の「生まれる」から、人の一生になぞらえてきました。人が生まれ、成長し、困難と立ち向かい、そして最後に迎えるのが「死」です。
4月という新しい季節にあえてこのテーマを設定したのには意味があります。新しいことを始めるためには、何かをリセットする必要があります。この世のすべては循環していて、終わりがあるからこそ始まることがある。肉体的な死でなくても、何かをリセットする体験を通じて、死を追体験することは可能です。そして、死を意識することで初めて見てくるものがあるはず。4月というさまざまなことが新しくならざるを得ない季節だからこそ、この一年をどう生きるかを考えるにあたって、前向きな意味で、死を意識することが大切だと思います。

―確かに多くの人にとって、日常のなかで死を意識することはあまりなさそうです。中川社長自身は、どうでしょうか?

中川 私自身は、若いころから死というものを意識しやすい環境だったと思います。母子家庭で育ったのですが、中学2年のときに父親代わりだった祖母が亡くなり、その後養子に出て、24歳のころに養母が亡くなりました。数年前には生みの母も亡くなっています。そしてそのすべてに介護体験があります。身近な人の死に直面するというのは、非常に重い出来事ですが、振り返ってみると、その体験を起点として、より広く人生を見ることができるようになったと思います。私は昔からよくインドに行くのですが、インドでは死というものがとても身近にあります。また先日、家族でネパールに行ったのですが、そこでも、日常のなかで死というものを意識する機会が多かったですね。その経験は、子どもにとってもプラスになると私は考えています。
人は年齢を重ねるごとに、身近な人がこの世を去ることが多くなります。私の家族もそうですし、スタッフやそのご家族、お取引先さまやそのご家族が亡くなるということも、少なからず経験してきました。身近な人の死というのは、当然、大きな痛みと空白を感じるものです。しかし今の日本では、死の非日常感が強すぎるために、死というものが必要以上にダメージを与えるものになっているのではないかと思います。

―意識するだけでなく、死に直面することも大切ということですか?

中川 死というものを意識するだけでも意味があると思います。ただ、不謹慎な言い方かもしれませんが、できれば人生の早いうちに、人の死に直面するという経験を積極的にしたほうが良いと思います。人は死ぬと、動かなくなって、冷たくなって、かたくなります。そのリアリティを経験しないことで、失われているものがあるのではないかと思います。それがいずれ自分にもくることがリアルにイメージできないというか……。死を意識できないと、時間が無限にあるように感じ、重大の決断ができず、いろいろなことが中途半端になってしまうのではないかと思います。すると、何をやっても生きている充足感が感じられない。逆に自分の命が有限だと意識することで、大きな決断ができます。

御代替わりから学ぶ、次世代につなげるということ

―今年の4月には御代替わりがありれます。ここにもひとつの区切りがあり、新しい時代が始まるわけですが、今回のテーマに関して、このことも意識されましたか?

中川 このテーマを決めたときは、御代替わりの話はまだありませんでした。ただ、御代替わりの話が出たときは、あえてテーマは変えずにいこうとは思いました。なぜなら、御代替わりに際して、「死と向かい合う」ために学ぶべきことが多いと考えているからです。
御代替わりにより上皇になられる今上陛下は、このために相当なご覚悟をもって、随分前からご自身が関与してきたことを整理されてきたと思います。皇族の方というのは、命をつなぐということを強く求められる立場です。それはつまり、死というものを強く意識していることでもあります。そういったお立場のなかで、次世代へのメッセージを出されてきたわけです。
前号の私のコラムでも書きましたが、特に、天皇誕生日でのお言葉は、今上陛下がご自身の立場として限界まで踏み込んだご発言だと思います。沖縄のこと、先の大戦でのことと、より弱い、つらい立場にある人の具体的な事案を出された。それは、次世代にその意志を継いでほしいという、死というものを意識されているからこその言葉だと思います。
それを思うと、私たち一般人は、何かをリセットすることも自由にできますし、それが世のなかを揺るがす大事になることもありません。そしてそれを、いつ、どのように表現しても良い、自由な立場です。それなのに、中途半端な生き方をしている場合じゃないと思います。
しかし、日本で普通に生活していると、日常のなかで死を意識するような機会はほとんどありません。だから、人の死でなくても、ペットや動物の死であっても、死に直面してそれをリアルに感じるという機会を積極的に持ったほうが良いと思います。
自分の死というものを意識するからこそ、時間軸を長く持てるはずです。死んだら終わりではなく、死というのは連綿と続く時間のなかでの通過点にすぎずない、という考え方です。持続可能であるということも、同じ考え方だと思います。これは、子どもがいる・いないに関係ありません。

―その話で思い出しましたが、宇宙の研究などでは、自分の世代で結果が出ることはまずなくて、次世代の研究者が結果を出してくれることを信じて日々の研究をするそうです。

中川 まさにその考え方ですね。たとえば、世のなかで「成功している」といわれる人には、二通りあります。ひとつは、死というものを意識していて、長い時間軸に立って世のなかに対してアクティブにチャレンジしている人。もうひとつは、享楽的に今この瞬間が良かったら良いという人。前者は、世のなかを変える大きなインパクトを周囲に与えることができますが、後者の成功は長くは続かないでしょう。
弊社はずっと京都を拠点としていますが、京都で長い歴史を持つ老舗企業には、死について意識しているかは別として、この次世代につなげるという考え方が根付いているように感じます。つまり、自分はひとつの通過点であり、次世代に事業をつないでいくことが重要なのだという感覚です。

「死と向かい合う」機会の必要性

―死を意識する、そして京都という点で、「五山の送り火」が思い浮かびました。死に対する意識に、そういった京都で伝えられてきた行事の影響もあると思いますか?

中川 当たり前すぎて考えたことがなかったですが、そう言われると、影響はあるかもしれません。五山の送り火は毎年8月16日と決まっていて、先祖を迎えるよりも送るほう、終わりのほうがはっきりしていると思います。子どものころ、送り火を見ながら「お盆に迎えた人の魂が送り火に乗って戻らはるんやで」と教えてもらいました。「送る」というのも死の疑似体験です。そうやって毎年過ごすことで、自分につながる先祖がいるから、今自分がここにいるんだということが、無意識に刷り込まれていることは考えられます。そう考えると、京都の人は、連綿と続く時間軸というものを意識しやすい環境にあるのかもしれませんね。
京都に老舗企業が多いというのも、そういった環境の影響もあるかもしれません。ベンチャー企業であっても、京都発の企業というのは、瞬間的に派手なことをするよりも、連綿と続くことが大切だということが刻み込まれているという感じがしますね。送り火というのは、天気が良くて空気が乾燥していると、一気に燃え上がってすぐに終わってしまうんです。そういうことも、京都で育っていなかったら知らなかったでしょうね。

―そう考えると、昨今縮小傾向にある伝統行事なども、ただ形式的なものではなく、長い時間軸のなかにいる自分を意識するために、必要な面もあるのかなと感じます。

中川 死に直面すること、そしてそれを節目ごとに意識することは、やはり大切だと思います。大きな痛みと空虚を感じる親の死ですら、時間が経つと慣れてしまって、日常のなかで死というものをあまり意識しなくなります。だから、たとえば法事なども、死ということを思い出し、意識することに意義があると思っています。
仏教でも神道でも信仰は何でも良いのですが、それにより死者と向き合うことが大切なんだと思います。日本人が無宗教化していることも、日常のなかで死を意識しなくなったことに影響しているのかもしれません。だから、「宗教は良いから死と向き合え」ということは伝えたいところです。

―死を意識することで決断ができ、新しいことを始められる。そしてそれは次世代につなげることを意識したものとなる。ここまでの、そういったお話を踏まえて、今年、中川社長はどういったことに取り組まれる予定でしょうか?

中川 プレマは今年で創業20周年を迎えました。ただ、今までの延長ではダメだというのは、ずっと考えているところです。この数年は、新しくジェラート作りなども始めましたが、まだまだできることがあるんじゃないかと思っています。私たちの事業を通じて、もっと人の人生にプラスになることをできないかと考えています。
私はもうすぐ50代です。30代、40代、50代と、年を経ることに自分の死というものも迫ってきます。若いから死と無縁というわけではありませんが、やはり年をとるほどその確率は高くなります。弊社の多くのお客さまにとっても、積極的に死を直視し、それを習慣化することは、プラスになることはあってもマイナスになることは決してないと思います。


今年の正月に家族で訪れたネパールの街中の風景。日常に死を意識する場面があり、写真は火葬場から上る煙とそれを人々が見ているところ

- 特集 - 2019年4月発刊 vol.139

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