前回に続き、今回もフラッシュバックの対処法についてお話ししたいと思います。フラッシュバックで苦しんでいる方には、漢方薬を処方するほか、自分でできる対処法を説明しています。
前回説明したように、フラッシュバックで苦しいのは、過去にあったトラウマの記憶だけではなく、フラッシュバックとともに湧いてくる恐怖、後悔、罪悪感、無力感、絶望などの思考の嵐が、際限なく繰り返されると感じるからです。フラッシュバックの記憶自体は、思い出さないようにしようと思っても、自然と思い出してしまうので、コントロールできません。しかし、その後に続く思考の嵐は、工夫をすれば減らすことができます。今回はそのための方法を紹介します。
フラッシュバックに効く魔法の言葉
「私は今、これ(フラッシュバック)を感じるタイミングなんだなあ」
フラッシュバックで苦しむ患者さんには、フラッシュバックが起きたら、この言葉を繰り返し心のなかで唱えてください、とアドバイスしています。
フラッシュバックが起きると、思考はすぐに「あのとき、もっとこうしておけば……」「あの人のせいで……」「またあんなことが起きないように、どうしたらいい?」「嫌だ!」「どうせ自分なんて……」といった考えをグルグルと繰り返そうとします。前回説明したように、フラッシュバックは本来、命の危機に対処するための仕組みと考えられますが、現代人にとって、そういった命の危機は何度も訪れるものではないので、フラッシュバックはほぼ必要のない脳の機能となっています。そして、その後に続く思考の嵐も、本来必要ないものです。なので、トラウマの記憶にも意味はないと思って問題はありません。トラウマの記憶の内容を「どうにかしなくては……」と思う必要はないのです。その思考の嵐に巻き込まれないように、魔法の言葉を繰り返し、繰り返し唱えてみてください。
脳の機能をうまく利用する
「私は今、これ(フラッシュバック)を感じるタイミングなんだなあ」
なぜ、この言葉が有効なのか? まず、顕在意識を司る脳の機能は、一度に一つの作業しかできません。そのため、言葉を唱えている間、思考を進めることができなくなります。
また、脳は過去と未来のことは考えることができますが、現在のことを考えることはできません。今、この瞬間は「感じる」ことしかできないのです。「これを感じるタイミング」といって意識を〝今〟に向けることによって、思考したい気持ちを減らすことができます。
さらに、最後の「○○なんだなあ」という言葉がとても大切なポイントになっています。これを言うことで〝フラッシュバックを感じている自分〟を客観的に観ている〝もう一人の自分〟に意識が移動します。思考と自分を切り離すことができるようになります。
以上の仕組みによって、「私は今、これ(フラッシュバック)を感じるタイミングなんだなあ」という、魔法の言葉を繰り返し唱えることで、フラッシュバックのあとに続く、思考の嵐に巻き込まれないようになります。
何度も試してみて、まずはフラッシュバックが少しでも軽くなる経験をしてみてください。そうすると、今までは、どうしようもないこと、通り過ぎるのを待つだけだったものが、もしかするとコントロールできるかもしれないという、希望が生まれます。
コントロールが上手になってくると、フラッシュバックがあってもいつでも抜け出すことができる→フラッシュバックがあってもいいかも→これも人生のスパイス! フラッシュバックを楽しもう→フラッシュバックの意味がなくなり、フラッシュバック自体がなくなる!! かもしれませんよ。