「お手当て」という言葉もあるように、人を労わるときには手を当ててあげることが基本。まずは手を当てる、触れる、擦るといったことを大切にしたいものです。背中を擦ったり、抱きしめたりしてあげることのほうがよっぽど大事だと考えています。「どこのツボ?」という“部分”を意識しすぎて「やり方」に走るのでなく、まずは手で“全体”に触れてあげるという親子の「あり方」を見失わないでほしいというのが願いです。
マスクが守ってくれるもの
もう一つ、「家ではマスクは外してね」とも付け加えます。お子さんのマスクを外してあげるのはもちろん、お母さん・お父さん・家族みんなのマスクも外して表情をお互いに見せ合うことが大切。マスク生活が長くなり、顔の下半分が隠れたままでいることで、人の表情を読むことができない子どもが増えているそうです。せめて、親の顔色くらいは見せてあげましょう。褒めてもらうとき・叱られるときの親の表情を知らないままで、人の心に寄り添う子に育っていけるとは思えないのです。
昨年は、どこに行っても九割以上の人がマスクをしていて、いまもだれも外そうとはしていません。それでも今年に入って感染の第六波があったことを考えれば、予防効果が万能とはいえないでしょう。マスクが守ってくれるのはウイルスではなく、他人からの厳しい目かもしれません。
人の表情を見づらくなり、人との接触が減り、触れ合う機会が少なくなったいまだからこそ、まずは親子で触れ合う時間をしっかりと持ってもらいたいなと願っています。
「察する」のはじまり
「人肌に触れる」というように、触れたり触れられたりすることで人の体温を感じるだけでも、オキシトシンというホルモンが分泌されて、心と体の成長に重要な役割を果たすことがわかっています。オキシトシンが分泌されることでストレスや不安を和らげることから「幸せのホルモン」と呼ばれるようになっています。オキシトシンには自律神経を調節する作用があることや、皮膚刺激によってオキシトシンが増えることもわかっています。皮膚に触れることで、皮膚に振動が発生し、その周波数が心に影響を与える可能性についての研究が進んでいるところです。
また、皮膚への刺激としては、揉む・叩く・押さえるといった強い刺激ではなく、優しく擦ることが良いでしょう。擦るは、「手」偏に「察」すると書くことから、手で擦ってもらうことで、察する力が育まれるのではないかとも考えられます。親からたくさん擦られて育てられることで、親の「手」を離れたときに、人を「察」することができるようになる。親から愛情を注がれてきたことで、成長した先で人のことを思い遣れるようになる。親子関係が人間関係の始まりとすれば、納得のいくことでしょう。
親子の触れ合いは、小さなうちだけでなく、思春期を過ぎて成長してからでも積極的にしてほしいと思います。自分を支えてくれる人がいるということを、身体の感覚レベルで感じ取れることで得られる安心感もあるのではないでしょうか。
表情から受け取るサイン、皮膚に触れることで得られるもの。ふれあうことが遠ざかりつつあるなかで、いま一度、親子関係から取り戻すきっかけになってほしいなと思います。