コロナ禍によって途絶えた国際的な人の移動。欧州やアセアン諸国は今年のかなり早い段階からアフターコロナを目指して国境をワクチンの接種有無とは関係なく開放していましたが、私もやっと海外に出ることを選択しました。実に3年ぶりのことで、こんなに長く日本にどっぷり沈没したことがないので、国際線に乗る、というだけで若かったころのようにワクワクしてしまいました。私たちは、自社内でカカオをゼロから加工して心と身体の薬となるようなチョコレートを織り出すという計画をすすめていましたが、やはりコロナ禍ですべてが止まっていました。やっとのことで人財の確保とカカオの輸入開始、機械のメンテナンスを経て製造所の再起動をおこないつつ、実際に使用しているカカオの産地を訪問することができました。私たちは、大量生産とアンフェア貿易、大量消費のためのマーケティングに裏打ちされたチョコレート産業と距離を置くことを選択し、少量で丁寧に皆さまに良質の品をお届けすると決め、これをカカオレート®と呼んでいます。カカオレートの素材の第一号はベトナム南部のドンナイと呼ばれている地域で生産されています。その産地訪問ダイジェストをお届けします。
カカオレート カカオのふるさと
ドンナイ農事組合を率いるルアンさん。ルアンさんはベトナム戦争終戦を迎えたとき、わずか9歳でした。貧しいベトナム中部で生まれたルアンさん一家は、戦争終結後、まだ未開のジャングルだったドンナイ省に一家で移住します。その後、この一帯は同じような開拓民によって農地として開墾され、メコン川流域の豊かな自然に支えられて順調な農業による発展を遂げました。本組合では、主にコショウの生産をおこない、現在では組合の加盟は約1000農家にのぼり、欧州やアメリカの有機認証を受けた組合のコショウ類が年間約1000トンも輸出されています。また、農事組合では、ルアンさんをはじめ、現在では5つの農家がコショウとあわせてカカオの栽培をおこなっています。カカオ農園にはカカオやコショウ以外のさまざまな植物が共生しており、効率よりも自然さを優先した栽培を目指しています。良質で風味の高いカカオ豆の生産のためには、栽培そのものよりもむしろ収穫後の重要な工程である発酵と天日乾燥の技術が重要であり、地域の生産者は交流をしながらよりよいカカオを仕上げるための技術の改良に余念がありません。発酵には木やステンレスでできた発酵容器とともに、バナナの葉が重要な役割を果たします。フレッシュなカカオ豆とバナナの葉を丁寧に層にして、およそ一週間、自然の微生物の力で発酵をし、これによりカカオらしさが引き出されます。まさにそれは日本の味噌や醤油、納豆などの製造工程と似たところがあり、発酵中の香りや粘りも、これらを思い起こさせてくれるものです。
平和こそ、価値
自ら運転する車中、ルアンさんは今までの生涯を振り返って私にこうお話しになりました。「私がこの地に移住して今まで、とてもいい人生でした。私は(ベトナム)共産党をよいとは思ってはいないけれど、戦争のあの時代に比べたら、平和のもたらされた今は、ほんとうに幸せです。世界中で、地政学的な理由による戦争が起きたり、懸念されていたりしますが、平和ほど人間にとって大切なことは他にありません。そのためには、まずはどんなことでも会って話し合うということ、これ以上に大切で戦争を回避する手段はないと思います」
プレマルシェの各店は、世界の文化、民族、宗教、習慣、食文化、アレルギーなど食を巡る違いを乗り越えるプロジェクトをBeyond food barrier!プロジェクトとして推進しており、これが世界平和への一助となることを願っています。ぜひ、私たちのカカオレートをお手にとって、ご自身や大切な人の心の薬となさってください。