弊社が20年以上取り扱いを続けている品はたくさんあります。これらの品は、とにかく「わかりにくい」ので、ごく浅くしか捉えることのできない方には魅力のない品に見えるかもしれません。例えば木酢液。創業当初から取り扱ってきましたので、27年間、変わらずお届けしていることになります。
先月の本稿では、「本物は、たいていわかりにくい」というタイトルで、本物には多種多様な効果があり、ミクロ志向の人には理解できないことが多く、マクロに判断できないと使いこなせませんよ、という話を書きました。今回はまた別の角度から、本物を検証してみたいと思います。
先日、京都市北部にある世界遺産、上賀茂神社(賀茂別雷神社)で、バイオリニストである葉加瀬太郎さんや、その仲間の皆さんが出演される音楽祭があることを知り、行ってきました。京都に長く住んでおり、この神社界隈は私が若いころに住んでいたところでもあります。しかし、このような神社での屋外の音楽フェスが開かれていることはまったく知らず、今年初めて体験することになりました。この神社は、鉄道の駅からは徒歩30分ほどかかる場所ですから、かなり不便な場所といえるでしょう。私も駅から炎天下を歩いて神社に着きますと、紙袋に入った液体だしを手渡されました。猛暑の屋外イベントの開始前に重い液体だしを受け取るのは決して愉快ではありませんでしたが、スポンサーがこのだしの会社のようでしたから、私も経営者なので「スポンサーとして、お金をたっぷり出しているんだから」と納得してありがたく受け取りました。この先の話は、決して誹謗中傷したいわけではなく、私自身のあり方を考えるためのものですが、誤解を避けるために、このだしの会社の名前は開示せず、K社と書かせていただきます。
読者の皆さまはご存じのように、私は自然食品の会社を30年弱経営していますので、このK社のことは知っています。一時期は私のことをよく知らない人に自己紹介しますと、「ああ、中川さんは自然食品の会社を経営されているんですね。私も子どもたちにできるだけ本物の、手作りの味を知ってほしいのでK社のだしを買って、毎回だしをとって料理をしています。」「K社のだしは無添加で安全なので、プレマさんでも扱ってください!」とかなりの頻度で言われました。私は当然、だしの設計も商品化もしますが、自社の品にはフェイクのうまみ、つまり酵母エキスと呼ばれる、添加物表示は不要なものの強いうまみを人工的に作り出したものを加えないことを、自社ルールとして徹底しています。K社のだしには、この酵母エキスが大量に含まれていますので、あんなに小さなだしパックなのに、相当な量の「だし」を煮出すことができます。いや、あの小さなだしパックの中には申し訳程度の天然素材が入っており、それを凌駕する効果を出す酵母エキスが粉末で入っていて、湯に溶けているだけですので、決して素材を煮出すという行為がうまみを引き出しているわけでもありません。自分で素材を集めてだしをとった経験のある方なら、ティーバッグ程度の天然素材だけではマグカップ1杯のだしも出ないことはご存じの通りです。1リットル、2リットルという量で本物のだしを引くためには、びっくりするくらい(両手で持てるか持てないかくらい)の量の鰹や昆布、煮干しなどが必要になりますから、K社の製品は決して天然だしではないことはすぐにわかります。しかし、残念なことに、「煮出している」という行為から、それをおこなっている人は「自分は天然素材からだしをとっている」と錯覚し、私にも「無添加で手作りの品だから、取り扱いをするべき」と進言してくるという滑稽なことが起きてしまいます。
K社のマーケティングは一流です。音楽祭の冠スポンサーとなり、全国各地に数多くの支店を擁し、消費者から多大なる評価を得ているのです。私のような弱小な経営者がなにかを言える立場ではありません。しかし、私が宣言できることは、私や私の経営する会社は、あのような方法で消費者に混同させることはしない、ということです。
拡大のもたらす罠
もっとびっくりしたことがあります。紙袋の中身であるK社の新作の液体だしの原材料表示を確認しました。てっきり、また「酵母エキス」でうまみを強調しているだろうなと思って末尾まで読むと、なんと添加物欄に「調味料(アミノ酸等)」と書いてあるのです。酵母エキスに加えてアミノ酸等とくれば、一般向き食品そのものです。いつからこのような方針転換がおこなわれたのかはわかりませんが、プレマで取り扱ってほしいとまで顧客に言わしめた会社が、拡大の過程でここまで変化しているのにはとても驚きました。
私は化学調味料(消費者庁は商品の表示にこの呼称を使うことを禁止しています)や酵母エキスを絶対的な悪だというつもりで本稿を書いているわけではありません。私はそのような断定を好まず、また、自分が作らない、売らないとしても、なにかを善悪で型にはめるつもりもないのです。しかし、たとえ会社が大きくならなくても、ブランディングやマーケティングという美名のもと、誤認を誘導するようなやり方は絶対に自社ではやらない、ということを決めています。なぜなら、それはとても私にとって恥ずかしいことであり、お客様や家族に顔向けできないことだと考えているからです。こんなことを書く私も面倒くさい人ですし、本物のだしをとるのもそれなりに面倒くさく、コストもかかります。本物でないものを本物と認知させることこそが問題であり、本物じゃないことには関わりたくない、というのが私の本音です。最後になりましたが、その日は素晴らしい本物のコンサートを堪能し、気分良く会場を出たことをご報告いたします。
