2019年12月に初めてのホノルルマラソン(10kmですが)出場のためにハワイを訪れた際、オープン直後の「Salt & Pepper」というお店にお邪魔しました。まだプレオープン中で朝食だけを提供しているという時期でした。
運よくオーナーであるカイリさんとお話をすることができ、素敵なヴィーガンレストランをオープンされた経緯を聞くことができました。
34歳でがんを宣告される
ワイキキの高級ホテル、ハレクラニでホテルマンをしていたカイリさんは2016年1月、ステージ2の結腸がんと診断されます。まだ34歳で、5歳の息子もいます。家族にがんを患った人が多く、彼は手術、放射線治療、抗がん剤という一般的な治療を受けると、どうなるのか知っていました。病院での一切の治療を拒否して、食事療法に専念することにしました。ヴィーガンだけではなく、PBWF(プラントベースホールフード:植物性の食材をなるべく精製加工することなく食べる)、またSOSフリー(Salt=塩、Oil=油Sugar=砂糖抜き)を徹底したのです。実は彼はがんを患うまで、毎日タバコを2箱半、お酒も飲み、食べる量は人の2倍、食事のときには2Lのソーダを飲み干していました。なんと水を10年間飲んだことがなかったといいます。
食事療法を徹底し、タバコとお酒を止め、まず3ヶ月後に糖尿病が治っていました。6ヶ月後には腫傷マーカーの値が下がり、11ヶ月後には「がんはすっかり体から消えている」と言われました。しかし体に起こった変化はそれだけではありません。彼は7歳のときに心臓発作を経験して以来、しばしば胸痛発作を起こし、初期の心臓病と診断され、糖尿病の他に高血圧、高脂血症を患い、体重は175kgもありました。3年間の生活習慣の改善で体重が102kgに減り、生活習慣病がなくなり、さらに頭がスッキリとして毎日が幸せに感じられるようになりました。一緒に食生活を変えた奥様は体重を45kg落とし、8歳になられたお子さまは快活で賢い自慢の息子に育っているといいます。
貴重な経験を伝える仕事
カイリさんは、ホテルマンの仕事を誇りに思っていましたが、自分の経験を活かして人を幸せにしたいと考え、「Salt &Pepper」の開業を決意します。
この店では肉やシーフード、卵などを使ったハワイの伝統料理も提供しますが、メニューの多くはヴィーガンでも注文できます。またヴィーガン食を提供する多くのレストランとの決定的な違いは、キッチンを2つ作り、ヴィーガン料理は動物性食材の汚染が一切ないように配慮している点です。ヴィーガンもそうではない人も安心して、一緒に食事が楽しめるお店なのです。
ハワイで出会ったカイリさんのサクセスストーリーに感動して監訳作業終盤を迎えていた『WHOLE』のあとがきで彼の紹介をすることを決めました。『WHOLE』は『CHINA STUDY』で有名なコリン・キャンベル博士の2冊目の本で、その重要な内容を日本の皆さまに知っていただきたい一心で日本語版の出版作業を進めていたのです。
2020年1月にできあがった本をカイリさんに献本したいと連絡を取ったのですが、そこで残念なお話を聞くことになりました。お店を共同でオープンしたビジネスパートナーと別れ、いまはお店に関わっていないというのです。彼の素晴らしいお料理が食べられなくなったと残念に思っていましたが、最近、とても美味しそうな(写真を見ただけでまだ食べていないので)ヴィーガンハンバーガーショップを開業したと知りました。さらに「そのお店を日本でオープンする夢を見た」と私にメッセージをくれたのです。彼の料理を日本で食べられる!! 正夢にならないだろうか? そんな妄想をしてひとりわくわくしています。