「人生って、アカペラだよね」
19歳から18年間、プロのミュージカル俳優として心血を注いだ私の夫が、突然つぶやきました。あまりに壮大な比喩表現に一瞬戸惑いましたが、夫の「セリフ」には慣れっこです。
私は夫にこう返しました。「そうね、正解のないアカペラよね」。そう、人生には決まった正解などありませんね。だから悩むこともあるし、戸惑うこともある。だけれども、自分が思ったように歌い、創り上げ、表現することができる。私はそれを、アカペラ人生と呼んでいます。
カラオケとアカペラ
一方で、模範解答がある人生、レールが敷かれた人生も選択肢として存在します。歌で例えるならカラオケです。カラオケならば、決められたテンポ・音程のとおりに歌えば、そこそこ上手に歌えます。ボタンを押せば勝手にメロディが流れ出し、画面には歌詞も表示され、いつ歌い出せばよいかまで教えてくれますから、安心して歌えます。決められたとおり歌えば、それなりの点数を取ることも可能です。
一方、アカペラはそうはいきません。伴奏がないので、自分で歌い出すまでなにも始まりません。カラオケのように用意された答えがないので、自分で考え、決める必要があります。たとえば、自分ならどのように歌うのか? いつ歌い出し、どんなペースで歌うのか? どこで、だれに歌うのか? これらはだれも教えてくれません。カラオケとは違い、どこにも答えがありません。だからこそ、自分で決める必要があるし、自分で決める自由があるのがアカペラです。
与えられ、決められた答えがあるのがカラオケです。それゆえ、失敗のリスクが低いので安心感はあるかもしれません。チャレンジしなくていいので、怖れを感じなくて済むかもしれませんね。周りからどう思われるかも、あまり気にしなくていいのでプレッシャー回避も可能かもしれません。
ただし、毎回、決まったとおりに歌わなければなりませんから、次第に飽きてくるかもしれません。さらに、悲しいときでも、アップビートの曲はノリ良く歌う必要がありますから、自分の気持ちや考えとの不一致感や不自由さを覚えるかもしれませんね。
アカペラは模範解答も、敷かれたレールもないので、最初は不安になったり、自信喪失を経験するかもしれません。また、自分なりの歌い方を試行錯誤、模索するなかで、いろんな方面の方に相談し、協力を仰ぐ必要も出てくるかもしれません。また時間や労力も要する可能性も高いので、じれたり、焦ったり、葛藤したりするかもしれません。それでも、自分が思った作品を表現できるのがアカペラです。
どちらで謳う?
どちらが良い悪いはありませんね。この二つの歌い方、人生には大きな違いがあるだけです。大事なのは、その違いを知って、試してみて(ここ大事です)、自分にとって「これがいい!」と心から思えるほうを選べばよいのではないかな、と私は思っています。もちろん、違う選択肢を見つけてもいいですよね。
歌と人生が違うのは、自分の人生を歩んだ人物はいまだ一人としていない、という点です。歌ならば、その曲を過去に歌ったほかのシンガーを参考にする手もありますが、自分の人生を創造し表現するのは、自分が史上初。前例がありません。だからこそ、自分の人生に対しては、カラオケよりもアカペラのアプローチが適している。これが私個人の考えです。
アカペラ人生を選ぶなら、イギリスのロックバンド・クイーンの代表曲「ボヘミアン・ラプソディ」のように独創的・個性的で、唯一無二のラプソディになることでしょう! You will rock you!