今までとはまったく違うアプローチでお客様との出会いを増やしたいと、ジェラート作りをまったく未経験からスタートして、はや2年。当初は「自然食品店が、体を冷やすジェラートやアイスクリームを作るなんて論外」というムードもあり、実際に「プレマは暴走し始めた」というような相当ひどい評判も立ちました。しかし、日にち薬とはよくいったもの。「あそこのジェラートは、どうも普通と違うらしい」というひそかな噂が広がっていたようで、最近では業界のなかでもよい評判を伝え聞くことのほうが多くなってきました。私が大事にしたかったことはいくつかのポイントに集約されますが、特に次の3つは絶対になんとかしたいと考えていました。
1つめは、化学物質無添加／オーガニック／植物性ベース／砂糖一切不使用などの条件があっても、圧倒的においしいことです。それらの条件をクリアしているアイスクリーム類は、ジェラート作りをスタートする前に世界のあちこちに出かけ、ずいぶん口にしました。しかし、どれも舌触りが悪かったり、いまいち味がはっきりしていなかったりと、頭で諸々の条件を理解していないとおいしいとは言えないものばかりで、なにも知らない人が「これはおいしい！」と思わず言ってしまうようなものではありませんでした。感情を理屈でねじ伏せようとしたところで、広がりは望めませんから、誰が食べてもおいしいと思えるレベルである必要がありました。
この点については、2年連続で世界最大のジェラートコンテスト入賞を果たしたことで、〝自称おいしいです〟ではなく、〝ほんとうにおいしいです〟と言っても言い過ぎではないことが、ある程度証明できたと思っています。
2つめは、冷菓であっても体を害しない、むしろ食べたほうが良い、というレベルを目指すことです。罪悪感のなかで、または自己矛盾のなかでコソコソ隠れてむさぼり食う必要がない、そんなジェラートを目指しました。
従前から「プレマルシェのジェラートは、冬に食べてもなぜか冷えない」というお声はたくさんいただいていたのですが、決定的な証拠がありませんでした。いつか、これを証明してみたいという気持ちがあり、とある夏向けの自社繊維製品の開発で、身につけると表面は冷たいのに血行は促進されるということを裏付けるデータが公的機関で取得できた流れで、ジェラートでも同様の試験をすることにしました。試験機関は東京都立産業技術研究センターで、順番待ちの数カ月を経て、次のようなデータがとれたのです。
試験では、人気の定番コンビニアイスと私たちのジェラートとで、食前、食中、食後の血流量を比較しました。いずれも食後から血流量が減りますが、食べたものが吸収されていくと、様相がまったく異なっていたのです。コンビニアイスは、体のもつ恒常性から血流量が元に戻るだけなのですが、私たちのジェラートは、それが体に吸収されたと推察される時間が経過すると、食べる前よりも血流量が増加しているのです！ 世界中のデータをくまなく調べることは不可能でしょうが、おそらく世界ではじめて、ジェラートを食べたことによって血流量が増加するという画期的なデータを得ることができました。つまり、食べているときは冷たい口当たりや味、冷感を楽しむことができ、食物として体内に吸収されると、体が食べる前よりも元気になっているのです。この日の被験者は2名だけだったので、人によって様相が異なることあり得ますが、今後もっと多くの被験者でテストすることで、さらに信憑性を高くすることが可能です。
そもそも、体を冷たくしたいから食べるアイス類で、このようなデータを求めて試験にチャレンジしてみようと思うこと自体が無謀なことです。しかし、食としての機能を綿密に計算してレシピを組み、素材をセレクトし、工程に特殊な方法を用い、そうなるように配慮した結果だからこそ、それが実際に起き得ると証明されつつあります。
最後に、私がどうしても譲ることができないこと。それが、前の2つを前提にしたうえで、このジェラートを「心の薬」とすることです。この言葉の意味は、抗うつとか、抗不安とか、そういう安直な意味ではありません。ジェラートを巡る思慮と配慮、そしてその思いのすべてが、食べる方の人生を豊かにし、つらいときには寄り添い、嬉しいときにはともに喜び合う、私の分身としてのそれになることです。世界の実りと進化、人間の思いのすべてを内包し、誰かが誰かにやさしくできる、そんな夢物語のようなこの世の姿を、「たかがジェラート、されどジェラート」の気持ちで取り組んでいきたいと思っています。
これはジェラートにとどまりません。私たちが関与し、提供するすべては、すべてそのようでありたいという、人としての信念なのです。
