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鍼療室からの伝言

鍼灸師の西下先生による陰陽や自然食。二十四節気など古来の智恵のお話

圭鍼灸院 院長 鍼灸師
マクロビオティック・カウンセラー

西下 圭一 (にしした けいいち)

新生児から高齢者まで、整形外科から内科まで。年齢や症状を問わないオールラウンドな治療スタイルは「駆け込み寺」と称され医療関係者やセラピストも多数来院。自身も生涯現役を目指すアスリートで動作解析・運動指導に定評がありプロ選手やトップアスリートに支持されている。

いまを生きるということ

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「明日、雨が降ったらどうしよう?」と心配で夜も眠れないという人はおられないでしょう。余程の大きな予定がある日は別にして、日常でそこまで翌日の天気が心配になることはないものです。朝起きたときに考えればいい。心配なら、カバンの中に折りたたみ傘を入れておけばいい。心配したところでどうしようもないと誰もが知るところだと思います。

詮方ないこと

「来週の検査、悪かったらどうしよう」とは、ガン患者さんから幾度となく聞いてきた言葉。こちらからお伝えするのは、「考えたところで結果が変わることはない。これまでと変わらずに検査の日まで自分でできる健康法を続ける。良くなると信じて淡々とやる。それより今日一日を元気に過ごせることを考えましょう」ということです。

悩んだからと結果が良くなるわけでもなく、むしろその不安・心配・恐怖心といった心理的ストレスで免疫力を落としかねません。信じてやってきたことを続け、その先は検査結果を見てからまた考えればよいのです。

似たような話でこの一年で多かったのが、「ワクチン接種してないと海外に行けなくなるから、しておいたほうがいい?」というもの。「知らんがな」と言いたいところを「海外に行く予定があるの?」と問い返してみる。「ある」と答えた人は一人もいませんでした。海外に行く予定もないのに、行けなくなるかもと心配する。そんなのは詮方ないこと。海外への渡航が決まって初めて悩めばいいことです。そもそも自由を求めるのに条件があるというのが不自由な気がします。

私の知人で非接種ながらこの一年のうちにヨーロッパに三回行って帰ってきた人がいます。さすがに「今度ばかりは接種証明が必要か」となりかけた局面はあったけど、悩んで準備を止めることはなかったそうです。詮方ないことを割り切れていたのでしょう。

同じ状況で、現地の状況をインターネットで調べるという人もおられるかもしれません。さて、それで不安は和らぐでしょうか。不安な気持ちで調べたところで、不安が増す情報に触れるばかりで、具体定な解決策が見つかるのはまずないでしょう。それに費やした時間が無駄になるばかりでなく、それこそ不安で夜も眠れなくなり体力も弱らせてしまいそうです。余計なことは調べないに限ります。

いま・ここに集中する

可能性を拡げたくて選択肢を増やすつもりが、増えるのは悩みばかりということはないでしょうか。まず大切なのは、心の置きどころを定めること、軸を持つこと。未来に起こるかも知れないことを想像して不安になるばかりで、いまやるべきことができず「心ここにあらず」では可能性を拡げることなど難しいでしょう。

禅の言葉に「前後際断」とあります。過去・現在・未来はつながっているように思えるけれど、それぞれの際(あいだ)は断ち切られていると考えてみる。過ぎ去ったことにこだわることなく、この先で起こるかどうかもわからないことに不安になることもなく、過去も未来も断ち切って、いまできることを一生懸命にするという意味です。

公園で遊ぶ子どもたちに目を向けると、学校で先生に叱られた過去も、これから家に帰って宿題をする未来も忘れて、いまここに集中しているように見えます。まさしく「前後際断」でしょう。

生きていれば不安になることもあります。怒りや悲しみの感情で穏やかではいられなくなるときだってあります。それが生きているということですから。だけど、この「前後際断」を心掛けて過去や未来を断ち切ってみることで、嫌な感情から解放されることもあります。
「いま・ここ」を大切に生きたいものです。

- 鍼療室からの伝言 - 2022年7月号発刊 vol.178

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