吐く息が白く、手袋の中の手まで冷たい。
ぐーぱーぐーぱー、寒さに縮こまった手を動かし、コツコツとブーツの足音を響かせながら寒空の下を行く。左手に通り過ぎようとした民家の垣根に、椿を見つけた。
艶のある濃緑の葉に赤い花びら、黄色いしべ・・・。 このコントラストに、鳥も人も惹き込まれずにはいられない。この季節、花粉を運んでくれる虫たちは休眠中。代わりに、メジロやヒヨドリといった鳥たちが蜜を吸いにやってきては、椿の花粉を運んでくれるのだという。エサとなるものが乏しい季節、鳥たちにとっても椿は貴重な存在なのかもしれない。
冷たい空気の中に凛として咲く姿は実に美しく、心を打つ。雪でも降ればなお一層に美しいことだろう。
「悩んだりつらい思いをしたりしている人ほど、えらいなって思うのよ」思い悩んでいる私に、ある人がかけてくれた言葉がよみがえる。厳しい環境にありながらも、一生懸命、強く生きていこうとする人の姿は、椿のようであるのかもしれない。
思い悩む自分を責めることはない、今が自分の美しいときなのだ。なんて客観的に自身を眺めている間に、胸のつかえが少しとれた。ぬくぬくの陽ざしの中では培われない魅力が、きっと今養われていることだろう。
さぁ、立ち止まっている間に冷えてしまった手を、もう一度ぐーぱーぐーぱー、温めながら歩きだそう。
宮崎 美里