当初は歓迎されて持ち込まれた外来種がのちに嫌われ者になってしまった動植物の事例と、ヨーロッパからアメリカに持ち込まれた病原菌が大規模被害をもたらした事例を紹介してきました。今号では、さらに視野を広げて、地球を制した最強の外来種について考えてみます。
今でこそ生態系のバランスの維持や絶滅危惧種の保護が謳われるようになりましたが、外来種という言葉は、「人間にとって好都合か、不都合か」という二面的な観点から語られてきました。以前紹介したマングースも、人間が持ち込んだ沖縄の環境に適合して繁殖したところ、今度は根絶を目指した駆除の対象とされました。人類も地球上の一生物として、地球規模で考えると、最も大きな影響を及ぼす外来種ともいえるでしょう。
約20万年前にアフリカを起源とするホモサピエンスが世界各地に拡散していき、約1万年前の農業の始まりによって、世界各地で人口爆発を起こしました。大陸ごとに進化を遂げるなかで、15世紀の大航海時代の幕開けとともに世界が繋がって、生物種の移動が一気に活発になりました。さまざまな農作物が海を越え、環境に適合したあと、数千年に渡る選抜と育種を経て固定種となりました。同時に、人類が意図しないところで天然痘やペストなどの病原菌の移動が起こり、数千万人規模の甚大な被害をもたらしました。
その後、18世紀後半に始まった産業革命は、農業や工業、交通技術を一変させ、化石燃料を基盤にした大量生産と消費の時代を切り拓きました。意図せぬ生態系の崩壊を引き起こし、地球全体の生物多様性に深刻な影響を及ぼしました。森林伐採などの人間活動によって引き起こされている現在の生物の絶滅は、過去とは桁違いの速さで進み、1975年以降、一年間に4万種程度が絶滅していると推定されています。
賢さと創造力を持つ一方で、その力を無自覚に使ってきた私たちが、環境保護や生物多様性の維持に対して果たすべき役割は、非常に大きいといえます。自然に携わる仕事をしながら、私が果たせる役割を模索していきます。
生態系のバランス(イメージ図)