実際にかかる医療費は?
貨幣価値の下落に準ずるべき保険診療1点の単価が、ある年から1点10円に固定されてしまったことで、医療だけが経済から取り残されてしまっていること、また多くの病院が赤字経営であることについて、前号ではお話ししました。今回も、この話に触れます。
たとえばきゅうりが3本で120円なら、多くの人はその質と値段が見合うかを判断してから購入します。「商品と支払うお金の対価が同じ」と了解してから、決済する。明朗できっちりした経済活動です。
では、医療の対価はいかほどが適正なのか。現状、ほとんどの患者さんは把握が困難です。これは、保険制度では実際の医療費の3割、もしくは決められた割合の自己負担額を窓口で支払うからです。結果、実際の医療費が見えづらいので(安価で医療を受けられることは、とてもよいことだとは思います)、患者さんには少ない費用で治療ができると思われてしまいます。弊害として、患者さん本人に予防の認識が薄くなってしまい、安易に再発を繰り返す場合があります。実際の医療の価値が認識されていないために、生まれる状況ともいえます。
国民皆保険の光と闇
この事態を解決すべきか。病院の受付では医療費全額(十割)を支払うことを提案します。患者さんに実際の医療費を把握してもらえるからです。全額を負担してもらうことで、「高くつくから、同じ症状にならないように予防しなきゃ」と、考えてもらえる環境が整うと思います。しかし、支払いが高額になるので、保険者が還付請求できる制度を設けるべきです。図解でその仕組みを紹介しています。最終的な患者さんの負担額は、今と変わりません。
還付を請求するのが面倒と思う人がいるかもしれません。しかし、国民の医療に対する意識や健康に対する認識を変えなければ、この国は終わってしまいます。身体が悪くなれば、心も曇ってしまいます。世界のなかでも日本人特有の心のあり方であった、相手を想う気持ちや優しさを取り戻すことが大切なのです。
おそらくですが食品業界やその他の業界でも、みんな同じことがされているはずです。車の保険もしかりで、すべて不明瞭ななかでお金が動いています。経済大国日本の経済が潤うことは大切ですが、本質がともなっていない経済ではこの先が心配です。
ある意味、痛みを味わってこそ先があるのかもしれません。国民皆保険は、差別なく一定の治療を受けられるすばらしい制度ですが、時代の変化とともに、ある側面から見ると、改善しなければいけない問題を抱えてきているのではないでしょうか。