特性という波に乗ってみたい
私が初めて作詞作曲した『アデコと君の唄』で描いたのは、不器用な少女「アデコ※」と、彼女に寄り添うお兄さんの様子です。
「アデコと歩む道で
ちっぽけな岩や坂道で
躓いたこともあっただろう」
この歌詞通り、自分の苦手な部分が足かせとなり、仕事で躓く場面が多くありました。それでも与えられた仕事をこなそうと、苦手分野に対し100%以上の力を出してしまった結果、鬱に。その経験から、私が仕事で使えうる能力、「手持ちのカード」は少ないかもしれないけれど、自分の形を無理に歪ませることなく、適切な努力でできることを長く仕事にしていきたいと思うようになりました。また、「特性」という波に乗り、それをプラスに活かすような道を選びたいという想いも抱くように。そして、二社目に就職した会社を辞めざるを得なくなったタイミングにも後押しされ、新たな道へ。
私は現在、『応援ソングライター』という肩書きで仕事をしています。インタビューを通じて、相手の価値観、がんばっていらっしゃること、目標などを聞き、相手の背中を押す『応援ソング』を自ら作り歌い届けるというものです。これは自分自身の得意・好きなこと・経験を掛け合わせてつくった仕事です。その背景を少し説明します。
ADHDがあると、「興味のないことに集中して取り組むことが苦手な反面、好きなことには寝食を忘れるほど夢中になれる」傾向があります。三歳のころから夢中で続けたピアノ演奏。これを周りの方のために活かしたいと思うようになりました。音楽を仕事にすることは、ハードルが高いことのように思えましたが、自分が没頭できるものは間違いなく音楽だという確信があったのです。
もう一つ、自分自身が大好きなことがあります。それは、熱い想いを聴くこと。たとえば「なぜ、その事業・活動をしているのか」という相手が持つ情熱に触れたとき、心が揺さぶられ、目の色が変わるのを自分でも感じます。
編集業に携わった一社目で取材同行、二社目で取材ライターをしたときも、話を聴くたびに内からこみ上げるものがありました。
また「発達の凸凹」も活かしたいと思いました。病院で発達障害の診断を受けたとき、「目で見た情報を記憶することが苦手な反面、耳からの情報保持は得意」と医者から聞き、すぐに合点がいきました。例えば、動物の絵を描こうとしても、頭のなかでそのイメージをまったく浮かべられないし、何回も通った道順を記憶できない。しかし、聴いた曲や、一度聞いた話は長く覚えているということに自覚がありました。また歌を歌う経験は少なかったのですが、学生時代に英語のリスニングが比較的得意だったことから、聴覚を活かして、今後歌い方を少しずつ上達させることができそうだと前向きに捉えました。
最後に、「笑顔・声がいい」と褒められたことがあったため、自ら『応援ソング』を弾き語ることで、お客様の想いを発信できたらと思ったのです。曲をお届けする瞬間は、「気に入ってもらえるだろうか?」と毎回緊張しますが、「自分で気づけなかった内なる想いを表現してもらえた」「応援の気持ちに涙が出た」などと喜ばれると、たまらなくうれしく感じます。
障害の有無にかかわらず
「発達障害があるなら、強みを活かさないといけない」という決まりはありません。しかし、せっかく得たギフトを、周りの方のために活かすことができたら幸せなのではないでしょうか。
「発達凸凹」があると、働くことが難しいのが現状だと感じるかもしれませんが、障害の有無にかかわらず、各自が持つ自然な形を活かしながら、働ける未来が広がることを願っています。
※ADHDと凸凹(でこぼこ)のデコを掛け合わせた造語。凸凹で不器用な女の子のイメージ。