突然ですが、「歌」そのものの性格について考えてみたことはありますか?
「さまざまな人を巻き込むパワーがあり、出会ったばかりの人にも上手く合わせながら、柔らかく懐に飛び込む」というイメージが個人的にはしっくりきます。そのように感じたのは二年前。友人の井上鈴佳さんへ『rainbow』というオリジナルソングを提供したことが、きっかけでした。
複数人を輪に入れるフレンドリーさ
彼女はレズビアン当事者。全国でLGBTに関する出張授業を継続するため、クラウドファンディングに挑戦したのです。その際PRとなる歌を作って欲しいという依頼を受けました。当時、まだ歌を提供したことはありませんでしたが、持っているものを活かして、そのときのベストを尽くしました。
前職でインタビューをしていたとき、「その方ならではの価値観・魅力ってなんだろう?」という視点で話を聴いており、井上さんの講演会に参加したときも、同様に心がけました。「性はグラデーションであり、だれ一人として同じ人はいない。LGBT当事者はもちろん、それ以外にあたる方も、自身の性に対して誇りをもつことで自信を持って生きてほしい」という切なる願いを感じ、その素敵な価値観を歌詞に込めることにしました。
制作後、いざSNSで歌を拡散すると、普段LGBTやその社会課題に対して、それほど関心が高くない層の方も、その動画を見てくださったように思えます。「歌を通じて井上さんの想いに共感し、金銭的支援をしたよ」という声も。また、いわゆるLGBT当事者ではない方から「歌を覚えて口ずさんでいるよ」「一人ひとり、違っていいのだと共感できた」という感想もありました。
そのときに、「歌ってすごいな」と尊敬の念を抱きました。コアターゲットの一重外側の円に居る方も、やさしく包含しているのだと。歌により、当事者以外の方も、きっと垣根が低い状態で、井上さんのメッセージを受け取られたのではないでしょうか。
本質的な歌の魅力に気がついて
『rainbow』を通じて得たことをきっかけに、始めたことが二つあります。一つ目は、クライアントさん自身の背中を押す、世界に一つだけの『応援ソング』制作。応援の渦を広げたく、SNSで歌を流すたびに、「○○さんの『応援ソング』覚えちゃった」「気がつけば口ずさんでいた」と言われます。なかには、「自分と重なって涙した」との声も。やはり、歌は「自分ごと」に変えてくれる魔法を持っているのでしょう。二つ目は、発達障害の当事者やその周りの方を励ます『はったつソング』作りです。ADHDを持つ発達障害当事者として、体験談を話していたとき、当事者でない方に対し、どこか線を引いて説明している感覚を否めませんでした。そして、いただくのは「発達障害の症状は、当事者でなくても当てはまるし、甘えでは?」という声。しかし、特性から来る「困り感」への応援の気持ちを歌にすることで、当事者とそうでない方が手を繋げるのではと、今は感じています。「励みになる。そして当事者はこの苦しさが、より大きいのかな」。歌を通じて、当事者以外の方にもエールが届き、また障害理解も深まった気がします。
また昨年、ドラマの主題歌として書き下ろされ、グリーフケア・ソングとして知られる、米津玄師さんの楽曲『Lemon』。OKMusicの記事によれば平成生まれのアーティストとして、もっとも売れた歌だそう(今年4月現在)。大切な人を亡くした方の心に深く突き刺さったと同時に、そんな悲しい体験をしたことがない方にも共感する部分が多かったのではと予想しています。
「歌」は、聴く人の心に合わせて姿を変え、きっと百人百様の解釈を生んでくれるのではないでしょうか。