無意識の中の信念が強いマイナス感情をつくりだしています。この無意識の信念は、7歳から9歳ごろまでに親との関係などで形成され、その後の人生に強い影響を与え続けます。無意識の中の信念ですから、頭で（意識で）分かっていても、人は簡単に行動を変えることができません。この無意識の信念は、「自己の物語」として記憶の中に深くしまいこまれています。例えば、何か嫌な出来事があると、人は繰り返しそのことを思い出したりします。そして同時にその時感じた怒りや憤りの感情が出てきます。強い感情が出てくることによって、さらにその出来事の記憶は強化され、そのため繰り返し容易に嫌な場面などを思い出すようになってしまいます。
これがトラウマの構造なのですが、問題は、記憶にはすでに感情がくっ付いているという事実です。そのため人は中立的に物事を見ることができないということが多いのです。正しい行動をとるためには、今、直面している出来事を客観的にみる必要があります。しかし、自分に深く関係があるような出来事については、人はどうしても感情が入ってしまうので客観的な判断をすることが難しくなります。
思い出したくないのに思い出してしまう。記憶は強い感情によって強化され、楽しいことよりも、嫌な出来事が頭に残ります。
感情と記憶はある意味双子のような関係なので、楽しいことも苦しいことも感情が伴わない出来事は早く記憶から消えていきます。それで、感情だけを記憶、思い出から切り離して消してしまうことが実際は困難な作業になってきます。トラウマは無意識からの衝動なので、意識で解消することが難しいのはそのためです。
しかし、偶然にも自分でトラウマを解消した人のエピソードを紹介したいと思います。そこには、どうすれば人はトラウマを解消できるのか、そのヒントがあります。
その男性は子供のころから父親に暴力を振るわれていました。父親は普段はおとなしくやさしい人なのですが、お酒を飲むと急に人が変わったようになり、家族に、特に母に暴力を振るったそうです。まだ子供で非力であったので、母が殴られているのを見ても、助けてあげることができなかったことが心にずっと引っかかっていました。父はいつの間にか憎しみの対象になり、記憶の中では「モンスター」の様な恐ろしい人間になっていて、その「思い出」はその後もずっと彼を苦しめていました。
やがて、成人して、母校の高校に教員としての職を見つけることができました。ただ、大人になってからも、「お酒」だけはずっと遠ざけていました。酔って暴れる父親の姿が目に焼き付いていたからです。就職してからしばらくは平穏な日々が続きました。しかしある日、ずっと避けてきたお酒を飲む機会がやって来ました。これまでは何かの理由をつけて飲み会はできるだけ避けていたのですが、同年代の友人たちにすすめられて、とうとう最後には断り切れず、それじゃぁ…ほんの一口だけと自分に言い訳して、お酒を飲んでしまったのです。
飲んでみると意外なことに、お酒が「おいしく」感じました。あんなに嫌っていたお酒が、実はとてもおいしいことが自分でも心底意外でした。思いのほかぐいぐい飲めて、そのおいしさは、これまで思っていたのと全然違っていてはじめは戸惑いましたが、気がつくと、ひと口が、ふた口になり、慣れないお酒のせいで、急に酔いが回っていることにまったく気がつきませんでした。しかし、酔いが進むにつれて、普段言いたいことも言えない小心な性格のせいで、そのストレスから人にからみだしていました。そして、これも酔いのせいでしょうか、自分でも自分を抑えることができず、挙句の果てに隣の席の見ず知らずの人と、取っ組み合いの喧嘩まで始めていたのです。
酔いがさめてきた時に、唖然としました。それは、人を殴ってしまったことにではありません。その自分の酔っぱらったみじめな姿は、小さいころからずっと忌み嫌っていた父の姿そのものだったからです。
続く…
矢吹 三千男
 矢吹 三千男氏生来の虚弱体質で16歳の時に十二指腸潰瘍を患い、ヨガと占いにはまる。二十歳の時には身長が175センチで体重は50キロ。いつも複数の薬を持ち歩く。様々な健康法を実践するもほとんど効果なく、ようやく食養生で体質改善に成功したのは30代も半ばを過ぎていた。その時、生まれて初めて「健康」を実感する。製薬会社勤務などを経て、その後バッチフラワーに出会い、現在（株）プルナマインターナショナル代表。 著書『感情のレッスン』文芸社刊 |
 こころと感情を癒す花のメッセージ「バッチフラワーレメディー」イギリスで70年以上の伝統がある花の療法です。依存性や習慣性もなく、世界60数カ国で多くの人々に愛され続けています。 |
