森友学園に関する財務省の決裁文書の改ざんに関与させられ、それを悔いて自殺された元・近畿財務局の赤木俊夫さん。妻の雅子さんが気丈にも国を相手に提訴され、裁判が始まりました。誰の目にも佐川宣寿元理財局長（元国税庁長官）の指示に基づき、組織の論理で公文書は改ざんされ、嘘を嘘で塗り固めた状態で上から下までが隠蔽に走った構図ですが、俊夫さんの良心はそれを受け止めることができませんでした。雅子さんの提訴は自分の身に危険が及ぶ可能性まで織り込んでの勇気ある行動であり、この勇気が報われる日が来ることを祈らずにはいられません。良心が「これは違う」と内側から叫び続け、それを表現することが決して許されない日本の官僚組織の硬直度はとても先進国とは思えないものですが、この先、人生をかけてこの隠蔽に関わった人のなかから真実が語られることを期待するとともに、私たちは本音を隠して生きることはときに命すら失ってしまう可能性があることを思い出さなければなりません。組織にいるのだから仕方ない、あれはこうだからどうしようもないという事情は私たちのすべてが持っているのかもしれません。とはいえ、本音に気づいてしまった以上、何らかの形で表現することができなければ、苦しさはますます重くなる一方なのです。そういう意味でいえば、雅子さんの勇気は夫への弔いであるとともに、彼女の人生にとって最も大切なことを最も大切にしたいという本音への決断だったと感じます。このように、組織の論理で固められた男社会よりも、より人間として大切なことに価値を見いだし、それを生きようとする力はむしろ、女性により大きく備わっている能力なのかもしれません。

販売業の現実

コロナ渦が押し寄せる少し前くらいからでしょうか。カスタマーハラスメントという言葉が語られるようになり、販売やサービス、製造の現場では顧客による理不尽な要求が問題視されるようになり、一種の社会病理として論じられるようなムードが醸成されていました。コロナ状況下では、「おまえがマスクをしているのなら、絶対に在庫があるはずだ、それを売れ！」といって何時間も店頭に居座るというケースが報道されるようになって、ネット上には販売の現場にいる無名の告白が目立つようにもなりました。弊社では、「あなたが大切に思う人を あなたが大切にできるように お手伝いしたい。… それが、どこかの誰かに そして無限の未来に きっと繋がっていく。」というミッション・ビジョンを掲げ、あらゆる機会と場において、これを実現することを目指してきました。しかしこれは、お客様だけに向けられた言葉ではなく、スタッフにも、取引先にも、関与する全ての人に対してそのようでありたいという宣言であり、誰かのためだけのものではありません。そこにはときとして矛盾のようなことが生じることがあります。創業のときから、スタッフに伝えてきたのは、「たとえば、世間が言うようにお客様が神様ならば、私たちも、関与する人全部神様だ。そういう立ち位置で、日々の判断をしてほしい」とくり返し伝えてきました。他の会社では、お客様からのクレームや意見はすべて現場に原因があり、すべて叶うようにしなければならないという指導が当たり前のようにおこなわれていた時代から、本稿で書く、読む人によっては不遜と感じられるようなことを社内で話してきたのです。しかし、私のこの軸は変わらず、たとえばテレビでいきなり取扱商品が放送され、手作りの希少な品なのに、「オンラインで注文できたかぎり、なにがなんでも即届けろ！」というお客様の声を叶えることはなにをしてもできません。京都から九州に当日届けることもできませんし、ご注文品すべての賞味期限を事前にメールでお知らせすることもできないのです。このような常識を逸した声をまず受け止めるのがカスタマーサポートのスタッフであり、彼女たちの心のバランスを維持することもまた、私の大切な仕事だと考えています。私自身も何度かお客様の自宅に呼ばれ土下座や金品の支払いを命じられたこともありますが、仮にそれに応じたとしても将来のお取引はすべて中止しています。売買は相互の合意に基づくものであり、一方的なものではないからです。これもまた本音であり、これを忠実に実行することでこそ、ほんとうに大切なお客様に対して一生懸命取り組める心の余裕が生まれ、さらに喜んでいただくことが可能になります。一方的に自らは悪だという前提に立ってしまえば、心の奥から沸き立つ共感や、やさしさもどこかに消えてしまいます。

お客様が心をもった人間であると同時に、関与するすべての人が、まわりに大切な人を持っているのが人間です。誰かが一方的に我慢する構図を脱しなければ、同じ悲劇は延々と続きます。この当たり前のことをあえて表明することが、今後の社会と経済の質を高めていくと信じながら、現在の難しい状況でも奮闘している医療や福祉、教育、販売、サービス、製造、文化芸術、報道、建設など、心を尽くして携わる現場の皆さんへのエールといたします。