家族と向き合ういろんなお話2

【Vol.87】第6回 「治す」以外の 大切なこと

 在宅ホスピス選びに関しては、まずは「実績」がある医療機関であるかどうかを確認するのがポイントです。
 訪問診療を行うのは病院ではなく、開業した診療所(クリニック)がほとんどです。在宅診療専門の医師もいます。在宅のノウハウと実績があれば、例えば夜中であっても連絡態勢があり対処方法もしっかりしていますが、実績がない場合は、その場その場で対処方法を考えるため、時間もかかり家族の不安も大きくなります。ですから、自宅で最期まで患者さんを看てきた診療所や医師の実績は、本人やご家族の安心の実績でもあるんです。
 そのような実績を診療所に電話で問い合わせても、末期がんの方の在宅ケアデータベース(http://homehospice.jp/)で調べていただいてもいいと思います。もちろん地域差がありますから、まずはお住まいの地域に在宅で診てくれる医師がいることを知り、選択肢を増やすことにも意味があります。
 病院では、医師と患者さんはがんの治療を中心に話し、生活面の不安は二の次になりがちです。例えばがん自体は大きくならなくても、生活に問題が生じることはよくあります。ですがこの場合、医師は「変わりない」と判断します。しかし実際は体力は落ち、以前は電車とバスで通院していた人がタクシーで通院しているかもしれないのです。つまり、体力の変化には治療による体力の低下と、がんの進行あるいは存在による体力の低下があり、それぞれ別軸で考える必要があります。
 前回、在宅ホスピスの利用者には病院からの紹介の人が多いとお話ししましたが、病院からは治療効果や治療方法がなくなるなど、何かしら限界がきてから、在宅へ紹介される人がほとんどです。でも、限界まで通院する前に患者さんに心構えがあれば、不安も違います。ビックリ箱の中身を知っていると驚く前に準備ができることと同じでしょうか。ソーシャルワーカーに相談したり、介護保険を利用して電動ベッドや車いすなどを手配することもできます。介護保険は基準としては65歳以上の方に適用されますが、とくにがんの診断のある方は、40歳以上で利用できます。その手続きには一か月くらいかかるのですが、医師がみな詳しいわけではないんですね。僕がトロップスという会社で患者さんを支援するときは、患者さんが医師に聞いておくと安心できる項目を事前に伝えます。それが医師に会う前の予習となり、医師としても整理して話しやすくなったりします。
 一般に患者さんが調べたくなるのは、病気の治療法や最新研究、薬といった情報ですが、実は、もっと別の面を整えていくことでも、同じくらい安心感があるんですね。患者さんの不安をじっくり聞いたうえで、対処法をコンサルティングすることで、治るか治らないかだけでなく、患者さんの心構えができ、不安が減り過ごす時間が濃いものになります。
 在宅ホスピスでは患者ケアと同様に家族ケアを重視します。それは家族の不安が患者さんを不安にすることがあり、また安心した家族が支えることで患者さんも安心して過ごせるからです。家族をカヤの外にすると病状変化の不満や怒りの矛先は誰かに向かいます。しかし家族の不安のケアをしっかり行うと実際に亡くなられる過程を見ても、納得できるんですね。
 看護師として思うのは、生きているときに家族ケアをつづけることで、亡くなったあとの後悔を減らすことができる、ということです。どんなにいい遺族ケアが存在したとしても、過去に起こったことは変えられません。自殺や事故死など、事前に対応ができない場合とは違い、がんに関しては、まだ変えられることがたくさんあるうちに、やれることがたくさんあるんです。
 そういう準備をしながらプロセスを進んでいくと、ご本人の生き方としても、支えるご家族としても、精いっぱい生きる人を精いっぱい支えた、ベストな方法を選んだという自信につながり、学びの経験をされる方も少なくありません。誰しもいずれは亡くなることに変わりはありません。生きている人の傷を浅くするようなケアを続けることで、傷の癒え方の種類も変わると考えています。(了)

※「がんのコンシェルジュが語る、がんの今」は今回で最終回となります。ご愛読いただきありがとうございました。

<文:らくなちゅらる通信編集部>

談:賢見卓也(けんみ・たくや)

1975 年、神戸市生まれ。兵庫県立看護大学看護学部卒業後、東京女子医科大学病院中央集中治療室などに勤務。日本大学大学院グローバルビジネス研究科ヘルスソーシャルケアコースを修了し、2009 年、がん専門生活サポートを行なう株式会社トロップス代表取締役に。2013 年、NPO 法人「がんと暮らしを考える会」理事長も兼任。同NPO法人監修で、がん患者の経済的な問題に関連した制度を検索できるWEB サイトも立ち上げる。

【Vol.86】第5回 「在宅ホスピス」 という選択

 がんの告知には3つの段階があります。1つ目が、前回お話しした病名告知で、ほとんどすべての方に行なわれます。 2つ目が不治であることの告知です。はじめに使用した抗がん剤治療の効果が乏しい場合、別の抗がん剤など検討しますが、どちらにしても患者さんの体には負担がかかります。ですので、ご本人が治療を希望しても、医師の医学的な判断で治療の続行が難しくなっていくこともあります。また、それまでの治療があまりに苦しかった場合など、ご本人が治療を止めたいと言うケースもあります。そういった場合に、これ以上の治療継続が難しいという不治の告知が行なわれます。 不治の告知を受けた患者さんでも、すぐに何か起こるわけではなく、症状が出ていない人も見られます。あとになって急に症状が出ることもあれば、例えば前立腺がんなど、慢性疾患のように長期にわたりつきあえるがんもあり、不治の告知後の期間は、がんの種類によってずいぶん異なります。 3つ目が、余命告知です。この状態で進行していくと、何か月後にはこうなると、はっきりした段階で告知されます。 現在、8割の方は病院で亡くなり、約1割前後の方がご自宅で「在宅ホスピス」を受けてすごされます。在宅ホスピスとは、きちんと医療にバックアップされ、痛みの緩和を行いながら、自宅で最期を迎えるための体制で、現在は、ご本人や家族の希望に基づいて病院から紹介されて利用する方が多いです。 患者さんの立場から考えると、病院では「患者」扱いですが、自宅なら普段着で過ごせ、例えば「家長」であるなど家族の中で自分が果たす役割があります。病院は共同生活である以上プライバシーが保たれませんから、トイレやお風呂、寝る際なども、やはり家庭のほうがリラックスできます。また、病院では好きなものを飲食できず、自由に人やペットと会えませんが、治療しない以上、そういった集団ゆえの不自由を我慢する理由がありません。さらに、趣味や、この先家族に遺すものの準備など、やりたいことをするためのものが、自宅にはあります。総じて患者さんが、生活することに重心を置いた場合、協同生活の病院より、在宅ホスピスを受けるほうが居心地がいいといえます。 ご家族の立場から考えると、家庭に患者さんがいることでの精神的・肉体的な負担を心配する方もいらっしゃいます。それぞれご事情があるとはいえ、在宅ホスピスは、家族の方にもメリットがあります。  最近では緩和ケア病棟も増えていますが空きも少なく、一般の病院では治療しない患者さんの長期入院は難しいので、余命告知後の入院先は患者さんやご家族の都合やタイミングで選べない場合がほとんどです。そして家族が病院に通う生活は、自宅の家事をして、移動と病院滞在のための時間をつくり、持ち帰りの衣類を洗い……など、生活とお世話の両立ができないぶん負担が大きくなります。一方で、家に患者さんがいると、生活しながらお世話ができ、気になったときにはすぐに顔をみることができ、移動の時間が必要ないのは大きなメリットです。 また、家庭で看取るほうが、ご家族の後悔は少ないようです。残された時間に限りのある患者さんは、ほんの2、3日の間に、大きく様態が変わることもあります。家庭でなら、日々できないことが増える様子を目で看て理解でき、そこに医師の対処で苦痛が和らぐのを見て納得・安心できます。また病院では家族が患者さんにしてあげられることはほとんどありませんが、家庭でなら、家族がトイレに付き添ったり食事を作ったり、できることがあります。ご家族にとっても、残された時間が有意義で、理解・納得のいくものとなります。 とはいえ現状では、在宅ホスピスはさほど認知されていません。その背景には、それをしっかり行える医師が少なかったという事情もあります。本来、医師は治療について学ぶもので、治さない患者に対する医療は専門外の方が多かったんです。が、今では、在宅医療、緩和ケアに関する医学部での教育も始まり、その人らしい最期を迎えるための医療も認知されています。裾野は広がっていますから、今後は在宅医療施設も増え、患者の側が選択眼をもつ必要も、出てくると思います。

<文:らくなちゅらる通信編集部>

談:賢見卓也(けんみ・たくや)

1975 年、神戸市生まれ。兵庫県立看護大学看護学部卒業後、東京女子医科大学病院中央集中治療室などに勤務。日本大学大学院グローバルビジネス研究科ヘルスソーシャルケアコースを修了し、2009 年、がん専門生活サポートを行なう株式会社トロップス代表取締役に。2013 年、NPO 法人「がんと暮らしを考える会」理事長も兼任。同NPO法人監修で、がん患者の経済的な問題に関連した制度を検索できるWEB サイトも立ち上げる。

【Vol.85】第4回 患者さんを支える、 周りの人の生き方

 ある人を失うかもしれないというのは、まわりの人にとっても劇的な状況です。だから「何かをやらなきゃいけない」「何もできなかった」と思いがちです。でも、まわりの人間がすべきことは、実は特別なことではないんです。
 どうやら普通の病気じゃない、とわかってきたときが、周囲にとって最初のタイミングです。本人が付き添いを望むタイミングには好みがありますが、いずれにせよ告知を受けるときには、誰かが付き添いましょう。本人は衝撃が大きすぎて、詳しく論理的な説明を受けていても、感情的にその情報を受け止めきれなくなることがほとんどです。代わりに必要なことを聞ける人が必要です。
 そのときに、励ます必要はありません。何を言っても大した効果はないですし、本人にしてみれば、いてくれるだけのことがすごく支えになります。とはいえ、ちょっと落ち着くくらいのことにしかなりませんが、行き帰りを共にしたり、ちょっと食事をしたり話をしたりする、そばにいることに意味があるんです。
 次には、何かを決めるタイミングがやってきます。治療の進め方、例えば仕事をどうするかなどその先のこと、病気の話を誰に伝えるかなど、1人で引きこもっていると決められないことを、話しかけて会話を続けながら、本人が決めていくお手伝いをします。
 そこから入院して治療を続ける、手術になっていくタイミングには、いろんなものをそろえる必要がある。準備や買い物に関しては、本人の手が回らなければ手伝います。また、看護師や医師は、その人の手術のことを責任もって説明するべき相手……キーパーソンと呼ばれる付き添いを必要とします。
 退院して通院が始まると、体調のよしあしの波が大きくなります。要介護の高齢者とはまったく状況が違い、がん治療中は体調がよければ以前とさほど変わらない人も少なくありません。が、体調が悪ければ八つ当たりをしたり、孤独感が生まれます。そこで関係が途絶えたり、けんかをしたりする。でも、相手が怒ったり攻撃的だとしても、体調が悪いから、がんの治療の先が見えないからだというふうに、いい距離でものを受け流す姿勢が必要です。そのときをうまく乗り越えたら、逆に雨降って地が固まることもあります。
 だんだん亡くなりゆく過程をとる方には、起こっている事実を前向きに受け止められるように捉え方を変えてあげましょう。例えば余命2年と言われたとしても、物は考えようで、その短さを嘆くのではなく、あと2年間これだけのことができると一緒に考える。行った病院が悪かったなどと悪者探しはせずに、それでも医師も看護師も遅くまで一生懸命やってるよなど情報をいいほうに受け止められる言い方を心がける。さらに自分の不安は自分の中に押しとどめる。
 それを大変と考えないで、自分にできることはそれなんだと考えましょう。大変な時期に懸命に関わることで、むしろ自分の後悔を減らせます。今日はたった1時間で帰るという日にも、話せたこと、嬉しかったことを大切にすると、その1時間は何もできない悲しいだけの時間ではなく、今日も会えていること自体を喜べる、価値ある1時間になります。

 ただ本人がすごく痛く苦しいのに周囲が前向きでいるのは難しい。痛みの緩和は充分できることなので、体の痛みや辛さは医療機関にしっかり取ってもらい、そのうえで本人を支えてください。
 残された時間が明らかになった方には、自分の気持ちでなく、相手の気持ちや体調に配慮します。直接会うのではなく手紙を届けたりその人の家族を支えたり、親戚や家族でも遠慮する必要も出てきます。例えば辛いから治療を続けたくないという70歳の父親を見た40才の子どもが「お父さんを甘やかさないで、治療を受けるように言ってよ」と母親を責めるようなことがあると、つらいのは患者さんです。一番大事なのは自分の希望や辛さではなく、本人の希望をみんなで支えること。実は日常にも起こっている、生き方の問題となっていきます。

<文:らくなちゅらる通信編集部>

談:賢見卓也(けんみ・たくや)

1975 年、神戸市生まれ。兵庫県立看護大学看護学部卒業後、東京女子医科大学病院中央集中治療室などに勤務。日本大学大学院グローバルビジネス研究科ヘルスソーシャルケアコースを修了し、2009 年、がん専門生活サポートを行なう株式会社トロップス代表取締役に。2013 年、NPO 法人「がんと暮らしを考える会」理事長も兼任。同NPO法人監修で、がん患者の経済的な問題に関連した制度を検索できるWEB サイトも立ち上げる。