在宅ホスピス選びに関しては、まずは「実績」がある医療機関であるかどうかを確認するのがポイントです。
訪問診療を行うのは病院ではなく、開業した診療所(クリニック)がほとんどです。在宅診療専門の医師もいます。在宅のノウハウと実績があれば、例えば夜中であっても連絡態勢があり対処方法もしっかりしていますが、実績がない場合は、その場その場で対処方法を考えるため、時間もかかり家族の不安も大きくなります。ですから、自宅で最期まで患者さんを看てきた診療所や医師の実績は、本人やご家族の安心の実績でもあるんです。
そのような実績を診療所に電話で問い合わせても、末期がんの方の在宅ケアデータベース(http://homehospice.jp/)で調べていただいてもいいと思います。もちろん地域差がありますから、まずはお住まいの地域に在宅で診てくれる医師がいることを知り、選択肢を増やすことにも意味があります。
病院では、医師と患者さんはがんの治療を中心に話し、生活面の不安は二の次になりがちです。例えばがん自体は大きくならなくても、生活に問題が生じることはよくあります。ですがこの場合、医師は「変わりない」と判断します。しかし実際は体力は落ち、以前は電車とバスで通院していた人がタクシーで通院しているかもしれないのです。つまり、体力の変化には治療による体力の低下と、がんの進行あるいは存在による体力の低下があり、それぞれ別軸で考える必要があります。
前回、在宅ホスピスの利用者には病院からの紹介の人が多いとお話ししましたが、病院からは治療効果や治療方法がなくなるなど、何かしら限界がきてから、在宅へ紹介される人がほとんどです。でも、限界まで通院する前に患者さんに心構えがあれば、不安も違います。ビックリ箱の中身を知っていると驚く前に準備ができることと同じでしょうか。ソーシャルワーカーに相談したり、介護保険を利用して電動ベッドや車いすなどを手配することもできます。介護保険は基準としては65歳以上の方に適用されますが、とくにがんの診断のある方は、40歳以上で利用できます。その手続きには一か月くらいかかるのですが、医師がみな詳しいわけではないんですね。僕がトロップスという会社で患者さんを支援するときは、患者さんが医師に聞いておくと安心できる項目を事前に伝えます。それが医師に会う前の予習となり、医師としても整理して話しやすくなったりします。
一般に患者さんが調べたくなるのは、病気の治療法や最新研究、薬といった情報ですが、実は、もっと別の面を整えていくことでも、同じくらい安心感があるんですね。患者さんの不安をじっくり聞いたうえで、対処法をコンサルティングすることで、治るか治らないかだけでなく、患者さんの心構えができ、不安が減り過ごす時間が濃いものになります。
在宅ホスピスでは患者ケアと同様に家族ケアを重視します。それは家族の不安が患者さんを不安にすることがあり、また安心した家族が支えることで患者さんも安心して過ごせるからです。家族をカヤの外にすると病状変化の不満や怒りの矛先は誰かに向かいます。しかし家族の不安のケアをしっかり行うと実際に亡くなられる過程を見ても、納得できるんですね。
看護師として思うのは、生きているときに家族ケアをつづけることで、亡くなったあとの後悔を減らすことができる、ということです。どんなにいい遺族ケアが存在したとしても、過去に起こったことは変えられません。自殺や事故死など、事前に対応ができない場合とは違い、がんに関しては、まだ変えられることがたくさんあるうちに、やれることがたくさんあるんです。
そういう準備をしながらプロセスを進んでいくと、ご本人の生き方としても、支えるご家族としても、精いっぱい生きる人を精いっぱい支えた、ベストな方法を選んだという自信につながり、学びの経験をされる方も少なくありません。誰しもいずれは亡くなることに変わりはありません。生きている人の傷を浅くするようなケアを続けることで、傷の癒え方の種類も変わると考えています。(了)
※「がんのコンシェルジュが語る、がんの今」は今回で最終回となります。ご愛読いただきありがとうございました。
<文:らくなちゅらる通信編集部>
談:賢見卓也(けんみ・たくや)
1975 年、神戸市生まれ。兵庫県立看護大学看護学部卒業後、東京女子医科大学病院中央集中治療室などに勤務。日本大学大学院グローバルビジネス研究科ヘルスソーシャルケアコースを修了し、2009 年、がん専門生活サポートを行なう株式会社トロップス代表取締役に。2013 年、NPO 法人「がんと暮らしを考える会」理事長も兼任。同NPO法人監修で、がん患者の経済的な問題に関連した制度を検索できるWEB サイトも立ち上げる。 |