砂糖の主成分であるショ糖は、主にサトウキビと甜菜という二つの植物から作られています。どちらも、植物が体内に蓄えたショ糖を搾り取り、濃縮・精製して砂糖を得るという点では、製糖の大まかな考え方は共通しています。
ところが、サトウキビでは搾汁液を煮詰めてそのまま固めることで黒糖が作れるのに対し、甜菜では同じ方法で黒糖を作ることができません。なぜこのような違いが生じるのでしょうか。
その最大の理由は、甜菜に多く含まれるベタインという成分にあります。甜菜は見た目こそ大根やカブに似ていますが、植物分類上はホウレンソウやスイスチャードと同じヒユ科に属します。これらの植物は、塩分や乾燥、寒さに比較的強い性質を持っています。
ベタインは、そうした環境ストレスから細胞を守るための成分で、細胞内の水分バランスを保ち、タンパク質を安定させる働きをしています。いわば、植物にとっての「細胞の保湿剤・安定剤」です。甜菜の祖先は、地中海沿岸や黒海沿岸の塩分を含む不安定な環境に自生していたと考えられており、ベタインを多くもつ性質は、その環境への適応の結果といえます。
ホウレンソウを茹でると、茹で汁に苦みやえぐみが出ますが、これはベタインやシュウ酸などの成分が水に溶け出すためです。そして、その茹で汁は捨てられます。一方、甜菜の場合は事情が異なります。甜菜の根は、ショ糖を大量に蓄える貯蔵器官であり、その保存のために葉よりもはるかに多くのベタインを含んでいます。この搾汁液を煮詰めると、ショ糖とともにベタインや窒素化合物が逃げ場を失い、濃縮され、加熱によって苦味や臭気が強調されてしまうのです。
そのため、甜菜は搾って煮詰めるだけでは食用の砂糖にならず、ベタインを含む不純物を化学的に取り除き、ショ糖だけを取り出す精製工程が不可欠となります。これが、現在の甜菜製糖の基本的な考え方です。
では、甜菜はもともとどのように栽培され、いつ、どのようなきっかけで砂糖の原料になったのでしょうか。次号では、甜菜の栽培と利用の歴史、そして製糖が始まった背景をたどってみたいと思います。

