以前、行政処分の適法性・妥当性について審査するために設けられている審査請求の制度をご紹介しました。今月は、私が代理人として審査請求をおこない、請求が認められた事例を、簡略化してご紹介したいと思います。事案は、児童扶養手当の資格に関する処分です。
児童扶養手当の受給資格喪失処分
児童扶養手当は、地方自治体が、ひとりで児童を育てる親に対し、所得に応じて毎月支給するものです。児童扶養手当の支給を受けるためには、まず受給資格の認定を受ける必要があります。
今回、問題となった方(「Aさん」とします)は、ひとりの児童を養育する母であり、約10年にわたって、K市から児童扶養手当を受給してきました。ところが、あるとき、この方が男性(「Bさん」とします)とルームシェアをしていることが判明しました。そうしたところ、K市はAさんとBさんが事実上婚姻関係にあるとして、児童扶養手当の受給資格を失わせる行政処分をおこないました。
児童扶養手当法では、法的に婚姻関係にない場合でも、事実上婚姻関係にある場合には、婚姻関係があるものとみなされます。そして、事実上婚姻関係にある男性が、女性の子(いわゆる「連れ子」)を養育している場合には、女性の児童扶養手当の受給資格が否定されます。そのため、(1)男性と女性が事実上婚姻関係にあるかどうか、(2)男性が女性の子を養育しているかどうか、という2点が問題となります。
Aさんの場合、確かにBさんとルームシェアをしていたものの、特にAさんとBさんが事実上婚姻関係にあったわけではなく、生計もそれぞれ独立に営んでいました。Aさんの子の養育費用も、Aさんのみが負担していました。
K市は、このような事情をまったく調査することもなく、単に「異性が同じ屋根の下に住んでいる」というだけの理由で、Aさんの児童扶養手当の受給資格を喪失する処分をおこなったのです。
審査請求
この処分により、Aさんに対して毎月支給されていた児童扶養手当が支給されなくなったため、Aさんの生活に大きな影響が生じてしまいました。しかも、K市は、Aさんに対して、AさんとBさんがルームシェアを開始した時点にさかのぼって、支給済みの手当全額を返還することまで求めました。
このような状況で、私はAさんの代理人となり、K市がおこなった児童扶養手当の受給資格喪失処分の取消しを求めて、審査請求をおこないました。
審査請求では、児童扶養手当法の条文上、先に述べた(1)と(2)の2点が問題となることを指摘したうえで、AさんとBさんが事実上の婚姻関係にないこと、生計が別であること、BさんがAさんの子を養育していないことなどを主張しました。その際、Aさんらの居住する家の間取図と各部屋の使用状況を詳細に示す書面や、Aさんが長年つけてきた家計簿、光熱費などの費用精算ノートなどを証拠として提出しました。これに対して、K市は、「手書きのノートは証拠として認められない」など反論しましたが、まったく説得力を欠く反論です。
また、口頭意見陳述という手続で、私たちの意見を口頭で述べたあと、K市の職員に対して、今回の処分の理由について細かく質問をおこないました。その結果、K市の児童扶養手当法の理解が不十分であることや、Aさんに対する処分をするにあたり十分な調査がなされていないことなどが浮き彫りになりました。
その結果、最終的に、Aさんに対する児童扶養手当の資格喪失処分は違法であるため、取り消されるべきであるとの裁決がなされました。私たちの請求が、全面的に認められたのです。
K市においては、Aさん以外の方も、児童扶養手当法の受給資格に関して違法な処分を受けているのかもしれません。今回の裁決を受け、K市における児童扶養手当法の運用が改善されることを、Aさんも、私も、願っています。