先月まで紹介してきた優生保護法被害に関する最高裁判決についての連載が終わったわけではないのですが、今回は、別の話題を取り上げます。
公法系訴訟サマースクール
今回取り上げるのは、8月30日、31日に開催された、第10回公法系訴訟サマースクールです。このサマースクールは、毎年、日弁連が、法科大学院生や法学部生、司法修習生、弁護士などを主な対象として実施しているイベントです。今年度は、関西学院大学大学院司法研究科との共催であり、私自身も企画・運営側で携わりました。
具体的には、公法分野の実務で活躍されている弁護士の方をお招きしてご講演をいただくとともに、公法分野の事例を題材にして研究者・弁護士によるディスカッション形式の講義をおこないました。
弁護士の方による講演
今年度は、まず、重度障害者の介護保障の充実を目指す取組みについて、藤岡毅弁護士と長岡健太郎弁護士にご講演いただきました。この取組みは、簡単にいうと、重度障害者の方が十分な介護を受けるために必要な公費の支給を求める活動です。私自身が取り組んできた分野でもあり、このコラムで何度かご紹介したこともありました。
講演では、かつて介護保障がおよそ不十分だった時代からなされてきた藤岡弁護士や長岡弁護士の積極的・知的な取組みによって、介護保障が充実していく過程が紹介されました。弁護士の継続的な取組みが時代を切り拓き、世の中を動かすことを実感させられる講演でした。
次に、スリランカ人女性名古屋入管餓死事件について、上林惠理子弁護士にご講演いただきました。
この事件は、名古屋入管に収容されたスリランカ人女性が、収容中に体調が悪化し、目に見えて衰弱していったにもかかわらず、入管が適切な医療を受けさせなかったため、最終的に女性が餓死したという衝撃的な事件です。
上林弁護士は、時折動画を挟みながら、日本の入管における外国人の処遇の酷さを告発しました。動画のなかで、「ワタシタチハニンゲンダ」と悲痛に叫ぶ外国人の方たちの声を、私たち市民は決して忘れてはならないでしょう。そして、私たちは、その声を、政府や裁判所に届けなければならないでしょう。
学校の校則をめぐる紛争
研究者・弁護士によるディスカッションでは、「罹災証明書をめぐる紛争」(行政法分野)と、「学校の校則をめぐる紛争」(憲法分野)を取り上げました。私自身は、憲法分野の事例問題を作成し、当日のコーディネーターを務めましたので、これについて少しご紹介します。
当日は、丸山敦裕教授(関西学院大学大学院)、市川正人特任教授(立命館大学大学院)、今治周平弁護士にご登壇いただき、校則による生徒の髪型の制約や、政治活動の制限などについて、憲法の視点からディスカッションをおこないました。
実は、髪型の自由が憲法で保障されるか否かという点だけでも奥深い問題であり、非常に充実したディスカッションになりました。
また、一般に、未成年者は、未熟であるがゆえに特別な制約を受けるとされますが、私はその逆に、同じ理由で未成年者に厚く保障されるべき人権もあるのではないかと考え、こうした点についても問題提起的な議論をすることができました。
未成年者の人権保障の問題は、今後、憲法学で深く論じられるべき課題ではないかと思います。