きのくに子どもの村通信より
学校法人きのくに子どもの村学園 〒911-0003 福井県勝山市北谷町河合5-3 |
もう二十年近く前のことである。私がまだ大阪市立大学にいた頃の話だ。研究室で幼児教室を開いていた。おもちゃ作り、料理、そして絵本作りが主な活動で、見本はあるが、作り方は自分で考える。これが大原則だ。子どもたちはすごく熱心に、たくましく制作に
「すみません。そのキャベツを半分だけ売ってくれませんか。」
「えっ、もう半分にしてあるよ。」
「そのまた半分だけほしいんです。」
「四分の一ということ?」
「はい。なんとかお願いできませんか。」
「えーっ! どうして?」
野菜売り場のおばさんが絶句する。お客は三人の小学生だ。学校の体験学習で「やきうどん」の材料を買いに来ているのだ。3、4人ずつのグループに分かれ、500円の予算で、具やつくり方をそれぞれに工夫する。キャベツを半分買ってしまうとお金が足りないのだ。おばさんは話を聞いて納得し、こころよく四分の一に切ってくれた。子どもたちは大喜びだ。
学校の名前は、北九州子どもの村小学校という。開校して四年目になるが、今年から和歌山にある「きのくに子どもの村学園」と姉妹校になった。きのくにと同じように「プロジェクト」と呼ばれる体験学習をカリキュラムの中心にすえている。一週間の時間割の半分がプロジェクトだ。
もっとも体験学習といっても、考え方も実際の進め方も、普通にイメージされるのとはかなり違っている。
1・自由な知的探求である。
体験学習というと、たいていの人は、手や体をつかい実物に触れる活動を考えるだろう。しかし、子どもの村の体験学習は、たしかに手も体もつかうけれど、何よりも頭をつかう活動だ。生きていく上で大事な問題、とりわけ衣食住に題材をとって、子どもたちが積極的に、そして自発的にその解決に取り組む。上のキャベツの件にみられるように、子どもたちはさまざまに知恵を絞り、仮説を立て、検証し、失敗したらまたやり直す。子どもの村のプロジェクトは、デューイのいう「活動的な仕事」としての知的探求なのだ。
2・多方面へ発展させる。
北九州はやきうどんの発祥の地である。みんなの自慢の郷土料理を中心にして学習が組み立てられる。だから楽しいし、興味も長続きする。しかも、この活動はいろいろな分野への発展の可能性を秘めている。調べたり書いたりして「ことば」(国語)へ、値段や数量の計算から「かず」(算数)の学習へ、郷土学習から社会科とくに地理へ、うどんの容器づくりから焼き物や工作へ、というようにどんどん活動と学習が広がる。
3・総合的な発達をめざす。
子どもの村の「プロジェクト」は、体験中心の総合学習といってよい。しかしたんなる合科学習や教科の寄せ集めではない。もっとスケールが大きい。発達のすべての側面が、活動を通して促進されるように、という意図を持って計画され実行される。まず、手と体と感覚が総動員される。感情面が解放されるだけでなく、達成感から生まれる自信や自己肯定感が生まれる。さらに知的探究の態度と能力、つまり小さな科学者のように考える力が養われ、さまざまな知識や情報が獲得される。それだけではない。話し合いや共同作業によって、ふれあいや信頼関係が生まれ、人間関係の術が身につく。
現代の学校では、教科書の中身の伝達だけが異常に大事にされている。教育はもっともっと広くてゆたかな内容を持っているはずなのだ。教科の伝達という狭い観念から学校教育を解放しよう。そして子どもたちの全面的な発達を援助しよう。これが私たちのプロジェクトのねらいである。
見学者は、ほとんど例外なく「子どもたちがみんな元気だ。生き生きしていて幸福そうだ」という。じっさい、みんなとても溌剌としていてたくましい。「学力は大丈夫か」と心配する人もあるが、卒業生たちの高校などでの成績はびっくりするほどよい。
かつてA.S.ニイルはいった。
「まず子どもを幸福にしよう。すべてはそのあとにつづく。」(『問題の子ども』)
プロジェクトに取り組む子どもたちは幸福だ。そして、いろいろな面でたくましく成長する姿がそのあとに続いている。