最近の小麦に対する偏見が気になります。イタリアでもその傾向は広がりつつあり、以前は薬局でしか購入できなかったグルテンフリー食品が、今ではディスカウントショップでも手軽に購入できるポピュラーなものになりました。それだけ求める人が多いということなのでしょうか。なぜグルテンフリーである必要があるのでしょう。そもそも、グルテンとは何でしょう。
グルテンは小麦に含まれるたんぱく質で、水を加えると活性化し〝ねばり〟と〝弾力〟を生じさせます。例えば、パンは小麦に酵母を加え発酵することにより、捏ねた生地に炭酸ガスが充満して膨らみ焼き固めています。また、ただ単に小麦粉と水を捏ね、延ばして切ったり型抜きしたりすることで、うどんやパスタができます。粘りと弾力の素であるグルテンがないとぶつぶつ切れ、麺になりません。このグルテンの構造のおかげで、小麦粉が自由自在に形を変え、さまざまなものに加工することができます。
グルテンは悪?
近年、このグルテンが身体によくないという見解や学術論文が発表されるなど、「グルテンは悪」、つまり小麦は食べないほうが無難という流れになっています。
イタリア料理には欠かせないパスタを取扱い十年以上がたちます。パスタを輸入するかどうか決め迷っているときに、パスタを加工する製麺所の社長からイタリアの小麦の現状について聞き驚いたことがあります。原料の小麦の栽培や輸送の方法、また加工しなければ食べられない状態の小麦への加工によるダメージ、穀類として長期保存できる小麦、そして最終加工されるまで、また、加工された後の管理方法の現状の詳細を知り、「グルテンが悪」、「小麦が悪」となってきた流れが見えてきました。
このパスタ工場は130年の歴史があり、今の社長が三代目になります。彼はお客さんが依頼するパスタのニーズと、その変遷を子どものころから見てきたと言います。この社長の証言ほど戦後から現在までのヨーロッパの小麦の問題、ひいてはグルテンフリーの問題を表しているものはないと思います。この工場のパスタに出会い、二年食べ続け身体で実感し、本当のパスタを日本の方に知っていただきたいという想いから輸入を開始しました。
私が取り扱うパスタは古代小麦や品種改良を過剰に施した現代品種とは異なる、昔ながらの種を自家採取したものを栽培し、細心の注意を払い製粉し低温乾燥で加工したものです。古代小麦は五千年、六千年の栽培の歴史があるといわれており、すでに古代の人が食べ現代に繋いできた食物ともいえます。そこにグルテンフリーをせざるをえなくなってしまった現代と照らし合わせるとヒントが隠されています。
小麦を無条件で避ける、小麦の代わりに米粉で加工することは本当に今の「グルテンが悪」を解決する方法なのでしょうか? 私はそうではないと思っています。次回も小麦について、そして、グルテンについてさらに詳しく書いてみたいと思います。
まっとうなパスタは一定量のおいしいお塩でアルデンテにゆでれば、ゆで汁までおいしいです。茹でたてのパスタにエキストラバージンオリーブオイルと生バーブを散らせば立派な一皿になります。本物はシンプルな調理法こそおいしさが際立ちます。