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自由教育ありのまま

「日本でいちばん楽しい学校」で新任教師がみた子どもたち

学校法人きのくに子どもの村学園かつやま子どもの村小中学校教員

中川 愛 (なかがわ あい)

かつやま子どもの村小中学校、きのくに国際高等専修学校を経て、立命館大学文学部卒業。高校生時代に東ティモールという国と出会い、残酷な歴史を背負いながらも、笑顔が絶えない東ティモールが大好きになる。「東ティモールのことを少しでも多くの人に伝える」ことを目標に、2019年度4月から、母校であるかつやま子どもの村で教員として働いている。父は、プレマ株式会社代表取締役の中川信男。

トラブルと向き合うこと

投稿日:

2020年3月20日、私が働いているかつやま子どもの村小中学校で「卒業を祝う会」がおこなわれた。小学生と中学生が同じ校舎で学校生活を送っているため、普段は小学校6年生と中学3年生を同時に祝う行事だが、今年は新型コロナウイルスの流行により、中学3年生とその家族と職員のみ参加することになった。
 
2月ごろから、さまざまなイベントの中止や延期が次々に決まり、3月はじめには全国の小中学校への休校要請、3月下旬には首都圏を中心にした週末の外出自粛など、悲しみと怒りの声が蔓延している。いつも通りの生活ができなくなる、ただその事実が人の気持ちを悲しさへと導く。この原稿がさまざまな人の目に触れるとき、日本がどんな状況になっているのか、今の私には想像がつかない。ただ、これを書いている現在の日本には、悲しみ、怒り、戸惑い、さまざまな感情が渦巻いている。
 
前号でも紹介したが、子どもの村では「プロジェクト」の時間が重要な役割を担っている。昨年度の中学校には、陶芸を中心に学びを進めるクラスと、演劇のクラスがあった。陶芸のクラスでは、子どもたちが1年かけて陶芸の作品や焼き物の窯をつくり、3月には、つくった作品をその窯で焼く活動を予定していた。また、演劇のクラスでは、1年かけて手づくりでひとつの劇をつくっており、その発表が3月にあるはずだった。しかし、政府からの要請を受け、かつやま子どもの村でも3月からの休校が決まった。1年かけて取り組んできた活動が途中のまま、新学期を迎えることになった。中学3年生も、卒業を祝う会の前夜までは自宅待機となった。
 
通常であれば、卒業を祝う会の準備は委員会の子どもたちを中心に、かざりつけや入退場曲の演奏、卒業生用のコサージュづくり、当日の司会などを学校のみんなでおこなう。しかし、今回は予想外の展開により、職員が準備をおこなった。世界や日本の状態は明るくなくても、一生に一度の祝う会を少しでもいいものにしたい。そんな思いで、できる限りの準備をした。有志による入場曲の演奏、てづくりのくす玉は8人の卒業生にひとつずつ用意した。

素敵な中学生

そして迎えた祝う会当日、笑顔で卒業生たちがやってきた。かつやま子どもの村の祝う会では、卒業生が証書とプレゼントをもらったあと、一人ずつスピーチの時間がある。そのスピーチを聞いて驚いた。
 
「休校になって忙しいなかで、こんなにわくわくする会をつくってくれてありがとう」。

「発表はできなかったけど、だからといって練習でがんばった日々がなくなるわけじゃない」。
 
長い子で9年間通った学校生活の最後の一カ月が休校になった。1年かけて準備してきた大切な日がなくなった。それなのに、だれも文句を言わなかった。
 
今の日本には新型コロナウイルスに対する怒りや悲しみ、戸惑いの声があふれている。この状況すべてを中国のせいにする声も多い。そんななかで感謝を伝えたり、「頑張ってきたことがなくなるわけじゃない」と言い切る中学生がいることに、驚きと感動を覚えた。子どもの村の中学生は、日ごろからプロジェクトを通して、自分たちで考え、実行し、トラブルにぶつかり、それを乗り越える経験をしている。だからこそ、学校以外の場でトラブルにぶつかったとしても、状況をふまえて柔軟に考えることができるのだろうとあらためて実感した一日だった。
 
そして、今年の中学3年生のうち2人は、私が中学3年生のときに小学1年生として在校していた子たちだった。小さくて、かわいくて、ひざの上にのせたり、肩車をしたりした子たち。その子たちの卒業に教員として立ち会えたことで、母校に戻ってきてよかったと改めて感じることができた。

- 自由教育ありのまま - 2020年5月発刊 vol.152

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