「対立か? 調和か?」と聞かれれば、多くの人は「調和」を選ぶでしょう。「他者と理解し合いたいか?」との問いには、大半の答えが「イエス」でしょう。それなのに、対人コミュニケーションや人間関係の悩みを抱える人の列はいつも長蛇。途切れることがないかのようです。
調和を願いながらも対人コミュニケーションに悩む人たちには、2タイプあります。ひとつは「譲歩」タイプ。もうひとつは「主張」タイプ。それぞれの特徴はとても違うのですが、ある共通点があります。それは「選択肢が少ない」という点。「主張するか」「譲歩するか」しか選択肢を持ち合わせていないため、悩みが尽きません。しなやかな影響力のスイッチを入れる前の私もそうでした。
譲歩か主張か? 二択の悩み
「譲歩」タイプが抱える悩みは「和を乱したくないので、意見の強い相手に合わせてしまう」「対立を避けたいので、なんでも自分が引き受けてしまう」に代表されるように、「流される、合わせる、我慢する」です。あからさまな対立は避けられても後味の悪さや、わだかまりが残るのが特徴です。それでも、揉めるよりは自分さえ我慢すれば……という発想をします。
一方、「主張」タイプは「言わなきゃわからないでしょ?」という信念のもと、積極的に意見を主張します。自分の意見をただ通したいわけではないのですが、相手が自分を「理解していない」と思うと、さらに理解を求めて主張を続ける傾向があります。同じ主張タイプ同士だと、対立状態に陥ることもしばしば。ちなみに「譲歩」タイプ同士だと、互いに譲り合い相手に合わせようとするので、いつまで経っても物事が決まらない、進まないといった煮え切らない時間が流れます。
調和を願いながら対立を避けることにエネルギーを費やす「譲歩」タイプと「主張、議論による相互理解」=「調和」と信じる「主張」タイプ。どちらもよかれと思ってやっているのに、相互理解や調和はなかなか叶わず、悩みや無力感が大きくなっていきます。この悩み、なんとかならないものなのでしょうか?
共感・共創のコミュニケーション「対話」へ
私が、30年に渡るコミュニケーションへの失望、理解し合いたいのに理解し合えない悲しさに終止符を打てたのは、主張でも譲歩でもない第三の答えに出会ったおかげでした。それまでの私は「主張」タイプと「譲歩」タイプを行き来するシーソーのようでした。それはとても疲れることで、わかり合うことは永遠に不可能なのでは? と感じていました。でもそれは「主張」と「譲歩」以外の選択肢を知らなかったからだったのです。
対人コミュニケーションには、大きく分けて3種類あります。1つ目は「会話」。情報共有のことです。雑談やおしゃべりも入ります。2つ目は「議論」。これは意思決定を目的としたプロセスで、意見の分析や評価が含まれます。3つ目こそが、主張でも譲歩でもない、理解を深め合うコミュニケーション。「対話(ダイアローグ)」と一般的に呼ばれるものです。対話は、雑談でも議論でもなく、説得やアドバイスでもありません。互いの考えや思いを率直に伝え合うことで起きる深い共感と相互理解。そして、そこからくる連携と互いの行動変化によって、互いが望む現実を一緒に叶えていけるコミュニケーションです。私は「感性による共感・共創コミュニケーション」と呼んでいます。
なぜそう呼ぶかというと、対話が効果を発揮するには安心感と共感が不可欠だからです。そして、感性こそが安心感と共感を生む秘密なのです。来月はもう少し詳しく「感性」と「安心感・共感」の関係性をお話しします。