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しなやかな影響力のレッスン

自分も周りも自然と良くなるために

影響力のスイッチを入れる専門家人材育成・組織開発コンサルタント

賀集 美和 (かしゅう みわ)

北海道旭川市生まれ。違いを超えて人と人が共に幸せな社会を創るには?その答えを求め日米の教育機関を経て、世界 900 店舗のレストランチェーン TGI FRIDAY'S で人材育成の道に。独立後10年の歳月をかけ、誰でも一瞬で一体感を生み出し互いを活かし合うボディヴォイス®の技術化/体系化を実現。講座や企業研修を通じ、慈しみと活力に満ちた発展的な社会を共に創り上げていく起業家や管理職などリーダーを輩出している。

脱走した猫が教えてくれた大事なこと

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2ヶ月前からプチ移住している里山で、事件が起きました。わが家のシニア猫のチビが脱走したのです。16歳(人間なら約80歳)のチビは、私の両親の忘れ形見で、1年半前にわが家の一員となりました。私の両親は猫エイズにかかることを恐れ、チビを家の外に出さず、14年間も箱入り娘として育てていました。そんなチビが脱走したのですから、私は動揺しました。

チビが逃げ込んだ裏山は、深い茂みで覆われ急な崖や小川もあり、人間も深追いが難しい場所です。しかし、チビにとっては新鮮な世界。日の沈みかけた薄暗い裏山で姿を消してしまいました。「自力で戻れなくなるのでは?」「危険な目に遭うのでは?」と、よからぬ心配が頭をよぎります。夫に助けを求めるも、「気が済んだら戻ってくるよ」とつれない返事。チビは一向に姿を現しません。仕方なく、私は捜索を諦め、家に戻りました。

「生きている」という歓び

しばらく家事などをしていると、ふと心の声が湧き上がりました。「私、なんか変じゃない?」「チビが戻らないことがそんなに問題なのか?」「最悪のシナリオを考えても、死はいつか平等に訪れるものではないか」そんな考えが巡るうちに、心境の変化が訪れたのです。問題視していた状況(チビの失踪)から物理的に離れ、距離を置くことで、私の視点がリセットされたのでしょう。

考えてみれば、15年間も、安全とはいえ、狭い世界で飼い慣らされてきたチビにとって、里山はなにもかもが新鮮で楽しいに違いありません。新しい世界にワクワクしているでしょう。未知の世界に、多少はビクビクするかもしれないけど、裏山を冒険しているチビは、とても生き生きしているに違いない。そう思えたのです。

人間も同じではないでしょうか。冒険や挑戦、新しい体験に心がワクワクしたことはありませんか? 「面白そう」「やってみたい」という、心の声のとおりに動くと、イキイキして、元気が出てきませんか? 私はそんなとき「生きている!」と、感じるのです。たとえようのない歓びが湧き上がり、幸せな気持ちになります。

だけど、私たちは、自分の心の声を無視してしまうことがありますね。なにかに心が動いても、理性で心と身体にストップをかけてしまうのです。よからぬ状況を想像したり、過去の記憶で「自分には無理だ」「これは危ない」などと自分に言い聞かせたりしながら。

冒険に出なければ、無傷かもしれません。挑戦しなければ失敗はないかもしれません。痛みも恐れも味わわずにすむのかもしれません。しかし、自分を理性で制御し続けると、自分の人生を「生きている」という感覚が失われ、生命力も弱ってしまいます。

生まれながらの性質

チビの脱走はそんな理屈ではなく、猫の本能によるものですが、人間にも本能があります。好奇心や成長意欲など、「もっと、もっと」という心の性質です。その本能の制御を解けば、私たちはもっと楽に行動でき、成長や幸福を享受できるようになります。冒険の痛みや傷も「生きている」実感につながります。私たちは、思うよりも、遥かにたくましい生き物なのです。

すっかり心も身体も寛ぎ、夫と囲炉裏でのバーベキューを楽しんでいると、何事もなかったかのようにチビが戻ってきました。冒険を終えた姿は、堂々として、とても誇らしく見えました。後日談ですが、野性を呼び覚まし、外の世界の楽しさを知ってしまったチビは、隙あらばと脱走のチャンスを狙うようになりました。すでに4回も成功しています。脱走の末、いつかお別れの日が来ても、私は後悔しないでしょう。なぜなら「チビは生きた!」と言い切れるから。私たちも、野性を呼び覚まし、冒険に出てみましょうか。

- しなやかな影響力のレッスン - 2024年9月発刊 vol.204

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