今回は、よく耳にする「地産地消」「身土不二」など、マクロビオティックの食事方法の考え方の基本についてお伝えします。1回目に引き続き、弊社スタッフ岸江治次が解説いたします。
その土地で育った食物を食べるのが自然
マクロビオティックの「食事方法」は、病気にならないようにするために行う予防医学です。しかしアレルギーやアトピーなどの身体の不調を抱えた方、癌などの重篤な病気になった方が、体調を改善するために取り入れることも多いものです。「万物流転」という言葉がありますが、どんなに調子が悪くいやなことがあったとしても、物事は必ず変化していくもの。マクロビオティックには、不調をどうよい方向へ変化させていくのかのヒントがあるのです。
マクロビオティックの基本的な考え方は、「地産地消(ちさんちしょう)」「身土不二(しんどふじ)」という言葉でも表現されます。「地産地消」とは、その土地でできた食物を、その土地でいただくということ。食べて排泄したものも、環境の中で循環させていくということです。また「身土不二」はもともと仏教用語ですが、「身」は命、「土」は環境をあらわし、それらは切り離せない関係にあるという意味です。その土地に生きるからには、その土地で育った季節の食物を食べることで、土地の風土に適応することができると考えます。また人間の身体は、ある程度の毒が入っても出すことができると考えるのも、マクロビオティックの特長です。
「地産地消」「身土不二」を基本とすると、日本人が食べるべきものとは、いったい何でしょうか。それを考える前に、そもそも人間とは、何をメインに食べて生きる動物なのかを探ってみましょう。
歯のつくりによって食べるべき物がわかる
歯の種類と役割
歯を見れば、その動物が何を食べているかがよくわかります。たとえば牛は草ばかり食べるので、門歯や臼歯が発達し、犬歯はありません。人間の場合は、親知らずを含めると、歯は全部で32本あります。まず、穀物をすりつぶす臼歯が20本、野菜類を切るのに適している門歯が8本、肉や魚を食いちぎるための犬歯が4本です。このことから、人間は穀物5、野菜2、肉や魚が1という比率で食物を必要とすることが分かります。ちなみに、歯が32本だから、食べ物は一口に最低32回噛む方がいいと言われています。病気の人はさらに100回、200回噛んで、消化吸収しやすくします。噛みながら唾液と食物を混ぜるのが大事です。
人間は穀物をメインに食べる動物だということがわかりましたが、穀物には、麦やあわ、そば、アマランサスやキアヌなどたくさんの種類があります。ここに先ほどの「身土不二」に基づいて、日本人にとって一番身近な穀物とは何かを考えると、それは「米」です。このことから日本人が主食にすべき食物は、「米」だということがわかります。
「皮もまるごと」が栄養的にもよい
玄米と白米
ここでまた、マクロビオティックの基本、「一物全体」という考え方をご紹介したいと思います。「ホールフード」ともいいますが、生命は、そのもの全体でバランスがとれている存在だという考え方です。だから米も、表皮や胚芽が付いた玄米のまま、まるごといただくのが、栄養的にも一番バランスがよいのです。つまり米を食べるなら「玄米」を食べることが、マクロビオティックの食事方法の基本になります。
玄米の表皮と胚芽の部分を漢字で「糠(ヌカ)」と書きますが、この漢字は、米ヘンに健康の「康」から成り立っています。一方、米に白と書くと「粕(カス)」です。こうして覚えると印象に残りやすいものですが、つまり、白米を食べることは、健康を捨てて粕を食べるようなものということです。
「一物全体」の考え方を取り入れた調理方法、食べ物の選び方では、以下のようにポイントをまとめることができます。
● 野菜などは皮をむかずに、 芯や根も工夫して食べること。
● なるべく茹でこぼさず、 アクを抜かないで食べること。
● 穀類は白いものよりも 黒っぽいものを食べること。
● 体質や体調、季節によって 調理方法も調節すること。
食べる人によって、臨機応変に献立や調理方法を考えることも必要です。たとえば、いくら玄米がよいからといっても、元気いっぱいの子どもには玄米よりも分つき米のほうがふさわしいこともあります。とくに暑い夏には、玄米は子どもにとって食べにくいもの。おとなと子どもでは生理的に求める食べ物も違ってくるのです。
玄米を炊く道具にも、土鍋や圧力鍋などいろいろとありますが、使う道具によって玄米の質も変わってきます。たとえば圧力をかけた玄米は、病気の方にとっては負荷が大きいものです。素材と食べる人の両方をよく理解し、いかに調理するのか。誰ひとり同じ顔の人がいないように、それぞれふさわしい食材や調理方法も千差万別です。
また、料理をつくるうえで基本的な知識も大切ですが、一番大事なことは、「大切な人(自分も含む)のために心を込めてつくること」です。つくるときの気持ちも、料理に入ると考えるのです
この世の中に「悪い食べ物」はない
また、前回も少しお伝えしましたが、この世の中のすべては「陰陽のバランス」で成り立っていると考えます。「陰と陽」というと一見対立する関係のように思いますが、それらは、互いに補い合う関係です。たとえば魚を食べるときに、大根おろしやツマ、わさびを付け、お肉には野菜を添るなど、食べ物の「陰陽」を理解して組み合わせ、中庸をとっていくのです。
肉や砂糖、牛乳や卵を食べてはいけない、と思われがちですが、禁止しているわけではありません。この世の中で「悪い食べ物」はないのです。たとえば肉や砂糖も、何か意味があって食品として存在しています。それを食べることによって悪い影響がある可能性もあるので、注意して食べる、または控えることも必要ですよと提案しているだけです。「肉とは何ぞや、砂糖とは何ぞや」ということを理解したうえで、食べるか食べないかを判断することが大切なのです。
マクロビオティックが本来目指すところは「自分が好きなものを好きなだけ食べる」ということ。「好きなものを好きなだけ」というのは、身体の細胞60兆の細胞が訴えてくるイメージです。ちょっとむずかしいようにも感じますが、続けているうちにだんだん自分が本当に欲しいものがわかってきます。食べてみて身体がどうなるかを観察し、調子が悪くなればコントロールしていけばいい。マクロビオティックは「こう食べなければならない」と規定するものではなく、選び方や判断力をつけていくための智恵なのです。