2012年新春のレポートは、皆さまのお力添えをいただきながら、弊社が新たに取り組んでいく「宮古島プロジェクト」を、現地から支えてくださる川平俊男さんをご紹介します。 宮古島における自然農法の先駆者である川平さんですが、今月号から本誌にもご寄稿くださるほどの学者肌で、実は、農家に生まれながらも研究者としての道を歩まれてきた方です。そんな川平さんには、「なぜ、それでも農業だったのか」という疑問を解く、ウェブページではお伝えしなかったもうひとつの神秘的なエピソードがありました。 |
ー川平さんが宮古島での農業に本格的に取り組まれるまでの経緯*をうかがうと、まるで何かの力が働いて仕向けられたかのようですね。
*その内容はウェブページで紹介しています
まさしくその通りで、何十年も前から言われ続けてきたことがあるんです。
僕は子どもの頃からほんとうに勉強が好きでした。昼間はずっと畑を手伝っていて、夜には父がすぐに火を消してしまうので、毎晩、月の光で本を読んでいたくらいです。
ところが、周囲からは「自分のための勉強はするな」と言われてきました。親戚も、世話をしてくれていた近所のお姉さんも、学校の先生も、校長先生さえも同じことを言うのです。ところが、「なぜ?」と理由を聞いても、「とにかくそうだから」という返事だけで、具体的には何も教えてもらえませんでした。
沖縄本島では、霊能力のある人のことをユタと呼びますが、ここ宮古島では「カンカカリヤ(神がかりになった人)」「ムヌッシャ(物知り、真理を知っている人)」と呼ばれます。僕は、そのカンカカリヤからも同じことを言われ、「15歳になったら話す」とだけ聞かされてきました。そして15歳を迎え、集まった親戚一同を前にカンカカリヤは、「何百年に一人という豊かな能力を持った子だから、自分がやりたいということをやらせるのではない」と告げたのです。
沖縄本島で仕事をしていた頃、ある女性と結婚するという知らせを実家に送ったところ、カンカカリヤに猛反対されてしまいました。それでも僕はその女性と一緒になり、子供も生まれましたが、結婚生活は長くは続きませんでした。幼子を抱えた僕は、まるで「いい加減に宮古に戻ってこい」と神様に諭されているようでした。
宮古に戻った僕にカンカカリヤは、「家業を継ぎ、宮古の農家を支えなさい」と言いました。それを伝えたのは目の前のカンカカリヤですが、目に見えない存在が、僕の使命はそれだと言わせていることは理解できましたから、そういう生まれである以上、その使命を素直に受け入れる覚悟ができました。
ーいま、農家の皆さんを支えるための具体的な策があるとうかがいました。
僕はいま、農家の人たちに「豚を育てないか」という話を持ちかけています。
どれだけ丁寧に野菜を育てても、出荷できない二級品・三級品はかならず一定数でてきます。これらを飼料に、健康な豚を育てようという提案です。
ここで農家の人たちには発想を変えてもらいたいのですが、出荷するための野菜を栽培して、その残りを飼料にするのではなく、「まずは豚を飼おう」ということです。豚を健康的に育てるためにいろんな野菜を作り、そのうち一級品だけを出荷しようじゃないかという発想です。
僕は研究者肌なので、まず調査をして問題点を抽出し、どんな解決策があるかを考えた上で実行します。この「養豚」に関しても、勉強会を含めて約三年間の準備期間を要しました。実際に、自然栽培の野菜を食べさせて特産品級の豚に育て上げたならば、一頭あたり年間60万円の増収が期待できます。従来のキビ作を続けていては到底望めないことですから、継続的に取り組む価値があります。放牧なので、手間をかける時間は短いことも魅力です。大がかりな意識改革には、話し合いだけではなく、こういったまったく新しい仕組みを作ることもときには必要だと思うのです。
ーその発想力は、子どもの頃から培われたものと察しますが、宮古島の子どもたちに伝えたいことは?
講演会などでも話すことですが、自然の摂理をもっと身近に感じてしてもらいたいのです。それには、食べ物や家族、身体、心のことも含まれますが、とにかく身近な自然に関心を寄せることがすべての出発点です。
ジャガイモや人参は、本来、夏には実りません。ところが学校給食のカレーにはこれらが使われていて、子どもたちは何の違和感もなく食べています。毎日スーパーで買う野菜も、それらの大半は宮古では採れないものだということにも気づいていません。
いまは何が旬の食材なのか、その野菜はどこからやってきたものなのか。そして、自然とともに生きるとはどういうことなのかを考えてもらいたい。ただ一方的に与えられることに慣れてしまうと、自ら考え、気づき、創造する力が養われることはありません。
私たちは宮古の伝統を尊重しながら、未来に向かって島の再生発展を目指す活動を続ける必要があります。いまの子どもたちにはぜひとも、自立・自給を実現する新しいふるさとづくりを支えるすばらしい若者に育ってもらいたいと期待しています。