2011年6月11日、永田町で開催された「とことんオーガニックシンポジウム2011」に出席してきました。もとは3.11直後に開催予定で延期されていたこのシンポジウム、奇しくも震災からちょうど3ヶ月後のこの日に、黙祷で幕を開きました。
原発事故の影響が長期化し、放射能汚染を恐れる声に、オーガニックへの訴えは打ち消されがちですが、その問題がなくなったわけではありません。今号では河村が、このシンポジウムに出席して感じた、食の安心安全について、今忘れないでほしいことをお伝えします。
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第1部ではまず、オーガニック・マーケティング協議会の徳江代表と、法政大学の小川教授による、生産者と消費者それぞれの立場に立った対談が行われました。その結論のひとつが、生産者も消費者もお互いが意識を変えていく必要があり、変えることができるということです。消費者の要求に対しては、できないこともあると知ってもらう教育も必要ではあるのですが、生産者あるいは流通側に、オーガニックだから当然という意識があるとすれば、それも変える必要があるようです。
続いて、「オーガニックの可能性を語る10min.リレートーク」と題し、様々な業種から6人の方が登場されました。その中でも、(株)Control Union Japanの山口代表によるコットンについてのお話では、オーガニックを選択するという行為は、最初は自分や身近な人の安心安全が動機でも、結果として非常に社会性を持つものなのだと感じました。
(有)アグリクリエイトの高安取締役は、NPO銀座ミツバチプロジェクトの理事長でもあり、なんと銀座のビルの屋上でミツバチを飼っておられます。ミツバチにとどまらず、『銀座里山計画』という計画も推進されており、ビルの屋上でお米を育てたり野菜を育てたり、何より楽しむ心が伝わってきます。楽しい、心地よいというのは、オーガニックの本来であるように思います。健康に良いという理屈より、心と体においしいという感覚の方が、はるかに説得力を持ちます。
弊社もお付き合いのある、金沢大地の井村社長も登場されました。井村社長はこれまで、日本の農業に重きを置かれていましたが、そこからさらに、よりオーガニックを重視する立場へ進まれるようです。このタイミングでオーガニックに腰を据えるという姿勢に覚悟を感じます。
第2部では、20代、30代でオーガニックに携わる、若い世代によるパネルディスカッションが行われました。千葉県東金市で農業を営む「あいよ農場」の志野さんのお話の中で、「百姓」というのは百の仕事ができる意で、自分はまだそこまでいかないから「百笑」と書いて百の笑いを作ることを心がけているという、素敵な言葉を教えていただきました。「あいよ」という言葉は、どんなときでも「あいよ」と気軽に、農場を訪れる人を受け入れたいという気持ちの表れだそうです。多数派ではないにせよ、自然を求め、つながりを求めるという流れは確かにあります。その流れを受け入れる場所を作ることは、農業、オーガニックが今後より良く展開していくためにとても重要なことです。
合同会社五穀豊穣の西居代表は、農場に関わるシェアハウスを企画されており、学生や20代の方が多く参加されているようです。耕作放棄地を再生して貸し農園にするという、株式会社マイファームの西辻代表取締役のお話でも、その需要は着実に増えているようです。それぞれお二人が見せてくださった写真の中では、参加者の方々の真っ直ぐな視線と笑顔、本当に楽しそうな様子が印象的でした。野菜を作って食して笑顔になれるというのは、やはりオーガニックだと思いますし、その可能性を諦めてはいけないと思います。
パネラーの方々が若い世代ということもあってか、第2部では、オーガニックの新しい可能性、希望のある勢いを感じることができました。オーガニックは特別なものではなく、自然に動けばおのずからオーガニックになるのだという、そんな意識があるようです。
第3部ではまた違った層から、長年オーガニックに携わってきた方々によるパネルディスカッションが行われました。株式会社ABC HOLDINGSの志村代表は、他の方々とは異なる次元から、そもそも今の20代30代は料理すらしないのだと切り込まれました。ただ、そういう料理すら初心者な人でも、オーガニックが良いものであることは大旨知っているし、価格を下げるよりも、それだけの価値があって割高である方が納得いくとのことです。まだまだマイナーなオーガニックの業界、その内側の議論に終始しているだけでは何も変わりません。我を張り合うのではなく、連携する気持ちが必要とされています。
農業技術通信社の浅川副編集長からは、オーガニックを千年のスパンで見るとともに、放射能汚染問題など直面する今の問題にどう対応するか、あわせて問いかけがありました。パネラーの方々からの答えの中から、まず千年のスパンで考えると、農薬や化学肥料は、そんなものがなかった時代の方がずっと長く、農作物はもともとオーガニックだったわけです。オーガニックは理想論ではなく、農業の本来の姿であると考えることができます。一方、放射能汚染の問題については、逆にこれまでにない方法が要となっており、それを前例に捕らわれず受け入れる柔軟さが求められます。
グリーンリーフ株式会社の澤浦代表取締役は、今の状況でも変わらず種を植え続ける姿勢を示されました。それは、収穫される作物というものは過去に植えたものであり、今植えるという流れを止めてしまうと、未来には何も残らないという考え方だそうです。確かに、どう表現するかの違いはあれ、今できることをすること、動ける人間は立ち止まらないことは、誰にとっても大切だと思います。そこで情報に流されるのではなく、必要な情報を自分で選択して、自分の責任において決断を行うしかありません。
オーガニックにまつわる問題と、放射能汚染の問題というのは、決して別の世界の話ではありません。こういう状況だからこそ、オーガニックの流れを止めてはいけないのだと思います。そこに携わってきた方々というのは、食の安全安心に寄与してきた方々です。今こそ、その知恵と経験を、誇りをもってつなげていくときではないでしょうか。