災難にあわない秘訣

病気やケガ・災難などに遭遇すると、「なぜ自分だけ……」と嘆きたくなるのが人間。では、やがては前向きにとらえていける人とそうでない人との差が出てしまうのはどういうことなのでしょう。

江戸時代の禅僧・良寛の言葉に「災難に遭う時節には災難に遭うがよく候。死ぬる時節には死ぬがよく候。これはこれ災難を逃るる妙法にて候」とあります。災難に逢ってしまったらそこから逃げ出そうとせずに災難に直面するがいい、死ぬ時がきたら死ぬ覚悟をするがいい、これこそ災難をのがれる妙法なのだ、というのです。生きていれば災難に遭うこともあります。慌てふためいたところで、すでに起こってしまった災難がなくなることはありません。起こってしまった不幸をまず受け入れてから、少しでも落ちついて対処できたほうがいいのではないか。聞こえ方によっては冷たい言葉のように聞こえますが、むしろ大変な目に遭っている人に対して「がんばって」と安易に声を掛けるほど酷なこともないような気がします。

残念な健康法

人が死ぬときに後悔することとして、「医者任せにしてしまった」というのがあれば「民間療法を妄信してしまった」というのもあるそうです。これはどちらが良いとか悪いとかいう問題ではありません。自分の選択に自分で責任を持てたかということではないでしょうか。

仏教では自分の思うようにならないことを「苦」とし、根本的なものを生・老・病・死の「四苦」と呼びます。誰にも共通して四苦はやってきます。信じて実践してきた健康法があって、それでも病気になったとき、さもその効果がなかったかのように否定してしまいたくなるかも知れません。でも、できれば否定はしないで欲しいと思います。これまで信じてやってきたことを否定し、恨み言を言ってしまうというのでは、そこに念を残す、残念なこととなってしまいます。

いつかはやってくる病や老いに備えて、何年もかけて最善の準備をしてきたとは考えられないでしょうか。あるいは、もっと早くに死んでいたかもしれないのに、今日まで生きてこられたのは健康法を実践してきたおかげだと感謝することで、残念さは薄らいでいきそうです。

平均寿命ってなに？

嘆きの言葉のひとつに「平均寿命までまだ何年もあるのに」というものがあります。ではお尋ねしますが、学生時代のテストは常に平均点と同じだったでしょうか、社会人として平均年収と同じ額を手にし、平均的な出世のスピードで昇進しましたか。体格は平均ですか、平均身長、平均体重にピタリと当てはまり、平均的な食事を毎日して、平均的なものの考え方をしていますか。こんな人は一人として存在しないはずです。平均とはあくまでも像であって、実在する個ではありません。それなのに、なぜ寿命だけが平均値と合わないと、まるで損をしたような気になってしまうのでしょう。

平均寿命など幻想でしかありません。一人ひとりの顔が違えば体格も、生き方もそれぞれ違うように、寿命も一人ひとり違って然るべきではないでしょうか。

大切なことはどれだけ長く生きたかではなく、どれだけ一日一日を丁寧に生きられたか、いま生きているか。

そのためには心を静め、自らと向き合う時間をもつこと。両掌を合わせてお祈りし、自分を省みること。どこででもできそうなものですが、なかなかそうもいかないのが人というものですね。家のなかに、手を合わせる場所をつくっておくといいでしょう。神棚や仏壇があればいいですが、なくても神社やお寺のお札を家の柱に貼っておいてもいいし、家族の写真でもいいでしょう。そういう場所を決めておいて、そこに向かって静かに手を合わせてみることで、心が落ち着いてくるでしょう。

禅の言葉で「悟無好悪」（さとればこうおなし）とは、あるがままを見られるようになれば好きも嫌いもなくなるということ。災いも幸せも、自分の心が決めるものと思えるようになればいいですね