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自由教育ありのまま

「日本でいちばん楽しい学校」で新任教師がみた子どもたち

学校法人きのくに子どもの村学園かつやま子どもの村小中学校教員

中川 愛 (なかがわ あい)

かつやま子どもの村小中学校、きのくに国際高等専修学校を経て、立命館大学文学部卒業。高校生時代に東ティモールという国と出会い、残酷な歴史を背負いながらも、笑顔が絶えない東ティモールが大好きになる。「東ティモールのことを少しでも多くの人に伝える」ことを目標に、2019年度4月から、母校であるかつやま子どもの村で教員として働いている。父は、プレマ株式会社代表取締役の中川信男。

子どもの目が輝く経験

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最近は画面のなかの世界に夢中になる子どもたちが多い。YouTube、TikTokなどのSNS、オンラインゲームやテレビアニメーションの画面のなかには、魅力的なコンテンツが数多く存在する。しかし、子どもたちを間近で見ていると、実際に体を動かして出会う経験に勝るものはない、と改めて気づかされる。

私の勤めるかつやま子どもの村小中学校でもっとも大切な時間は「プロジェクト」という体験学習の時間で、子どもたちが自分で考え、建物を建てたり、田畑で作物を育てたりする。国語の授業にあたる「ことば」の学習も、プロジェクトに関連する内容を扱うことが多く、自分の経験をたくさん作文に書く。この文章は年度末に自作の本としてまとめられるため、「原稿」と呼ばれる。私は2年続けて1~3年生のことばを担当し、その時間を通して子どもたちのある変化に気づいた。

体を動かし、心が動く

1年生で入学してきたばかりの子や、転入してきたばかりの子の多くは、この原稿を書く時間が苦手だ。また、低学年のことばの時間には、作文だけではなく活動の絵も描くのだが、これが苦手な子もいる。

ある1年生の男の子は、入学当初、ゲームに出てくる拳銃や剣などをたくさん描いていた。また、その子の絵は紫や黒などの暗色であふれていた。しかし、1年間「くいしんぼうキッチン」というプロジェクトで活動を続けていくうちに、絵に使う色が鮮やかになった。2学期には、みんなでつくったパン窯の絵をカラフルな色で描き、パンを焼く自分たちの周りには植物や蝶々などの生き物を描くようになった。

2年生の女の子で文字を書くことに苦手意識を持っていた子は、原稿の時間が嫌いな様子だった。ことばの時間の間ずっと、「なにをしたのか思い出せないから書けない」と言っているような子だった。その子もプロジェクトの活動を続けていくうちに、少しずつ原稿を書く量が増えていった。このように作文や絵を描くことに苦手意識を持っていた子が、ことばの時間を通して、楽しんで絵や原稿をかくようになるのは、決して珍しいことではない。

夏の暑い日に汗を流して畑や田んぼの作業に取り組んだり、自分の何倍もの大きさの建物を建てたり、手をいっぱい動かしておいしいパンをつくったり、子どもの村の子どもたちは、そんな経験をたっぷり自分のなかにたくわえている。「実際に自分の体を動かし、心を動かされた経験がある」。そういった感動的な経験で自分のなかをいっぱいにすると、自然と自分のなかにある気持ちを絵や言葉で表現できるようになるのだろう。豊かな経験は豊かな表現を生むと、改めて気づかされた。

ひさかたの 光のどけき 春の日に
しづ心なく 花の散るらむ

これは私の好きな百人一首のひとつで、「こんなに穏やかな日の光がさしている春の日に桜の花はどうして慌ただしく散っていくのでしょうか」といった意味である。この歌のイメージがときどき子どもたちの様子と重なる。

年を経て多くを知れば知るほど、既成の価値観や考え方など、自分の枠に落ち着いてしまいがちになる。小さいときこそ、さまざまなことが魅力的に見えて、幅広いことに興味が広がりやすい。

だからこそ、新しく興味をもてる多感なその時期を大切に過ごしてほしい。画面のなかの世界だけでなく、実際に体を動かすことで、出会う感動やわくわくを経験してほしい。力いっぱい咲いて、その気持ちを表現してほしい。そのころにしか描けない絵があり、そのころにしか紡ぐことができない言葉があるのだから。あふれる気持ちを外に向かって表現する喜びを、多くの子どもたちに感じてほしい。

- 自由教育ありのまま - 2021年4月発刊 vol.163

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