最近よく目にするようになったマクロビオティックという言葉。どうやら「肉を食べてはいけない」「砂糖は体を冷やす」など規制が多そうですが、具体的にどんな手法なのでしょうか?(港区・内側からきれいになりたいOL)
A.「食」によって健康を維持する日本古来の考え
答える人 岸江 治次
人が生きていくうえで必要不可欠な酸素を全身に運んでいるのは血液です。その血液の元となるのが食べ物です。私たちは食べないと生きていけない、食べることと生きることは同じなのです。
マクロビオティックというと、何か特殊な食べ方や、ものの見方をすると思われがちですが、そうではありません。
もともとは食養や正食といって食べ物を選ぶことによって自分の健康を維持するという考え方のこと。マクロは大きい、ビオは生命、ティックは方法という意味、つまり「命を大きな目で捉える方法」という言葉です。
マクロビオティックという言葉を作った桜沢如一先生は、この考え方を『無双原理』というタイトルでフランスで発表しました。
その後、海外で広まりマドンナなどの著名人が実践したことや、食事法で糖尿病やアレルギーなどの生活習慣病を改善した人がいることから、日本でも広まりつつあります。
しかし、実は昔から日本にある考え方で、貝原益軒や陸軍軍医である石塚左玄らが東洋医学の食事法で病気を治すことを提唱していたのです。
無双原理とは「万物は陰陽から成る」という考えで、人間は陰陽のバランスが適切に保たれていると健康と考えられています。
この陰陽の食の分類だけがフォーカスされ、マクロビオティックというと「あれを食べたらいけない」などの方法論ばかりが先走ってしまいがちですが、決してそうではありません。
一番大切なのは「生き物としてなにを食べるか」ということ。
今のように交通手段や文明が発達していないころ、生活している環境のものを食べるしかなかったため、すべての生き物は自然環境の影響を受け、そのなかで育っていたといえます。
例えば、人間の歯の種類は一般的に犬歯が4本、門歯が8本、臼歯が20本に分かれており、それぞれ犬歯は肉、門歯は野菜、臼歯は穀物のためにあります。
割合でみると1:2:5。この対比バランスで食べることが人間の健康にとって良いのではないかというのも考え方の一つです。
また、分子生物学者の福岡伸一による『動的平衡〜生命はなぜそこに宿るのか』という著書があります。
生物を構成する分子は日々入れ替わっているということについて書かれた本です。
川の水は絶えず留まることなく入れ替わっていますが、一見、川としては変化がありません。
同じように人間も変わっていないように見えて、食べたものによって細胞が入れ替わっています。
マクロビオティックも、その動的平衡概念に基づき「食べ物を選ぶことによって自分の健康を良くしていく」という考え方です。
ここで鍵となるのが「身土不二」「一物全体」という四字熟語。
身は生命、土は環境。命と環境は切っても切れない関係であるということです。
この「切っても切れない」「二であって二でない」と同じ意味を持つのが、前出の「無双原理」の「無双」です。
身土不二の考えでは、人間にとって環境から栄養を摂り入れるのに一番都合のいい穀物はお米です。米は日本の風土に一番適合してよく育ちます。
また、一物全体とは「すべての生命は全体でバランスをとっている」という考え方です。お米も全体、つまり「玄米」のままがバランスよく栄養を摂れるということです。
玄米は白米にはない胚芽と表皮があり、その胚芽と表皮のことを糠(ぬか)といい、胚芽にはいろいろな栄養素、表皮には食物繊維があります。
人間の体の構造と日本の環境からすると、日本で生活する限りは、お米をきちんと摂ることが一番の健康ということです。
そのためマクロビオティックでは玄米食を推奨しています。
昨今、人間にとって一番健康的なのは植物主体、ホールフーズということが栄養学でもわかってきています。
私たちの体質は人それぞれです。
文明が進歩して好きなものを食べられる時代になった今、自分の体質にとって何が一番良いかということを自分で判断しなければならず、一度口に入れてしまうと取り返しがつかなくなります。自分の体をどういうものにしたいかは、自分で選ぶことができます。その選び方の手法としてマクロビオティックの考え方がとても役立つのです。