先日、開業当初より通院頂いている患者さんと“歯”にまつわる言葉についての話で盛り上がりました。彼は満80歳を迎えられた今も現役で忙しく仕事をされており、現在も28本の健全歯をお持ちです(歯がそれだけ生存していることは、大変なエネルギーを感じます)。彼のお話では、昔はお産をするときは“きばかめ”(りきむという様な意味だと思います)と言ったり、何となく不抜けた力の無い感じの人のことを“歯がかりないやつだ”と言ったり、とにかく“歯”を使った言い回しが沢山あったなぁと教えて下さいました。どれも私には初めて聞いた言葉でした。もしかしたら秋田特有の方言が入っていたのかもしれません。日本の言葉には他にも歯がゆい、歯が浮く、歯に衣着せぬ、歯がたたない、歯を食いしばるなど“歯”が多く使われています。人間の身体の中で最も硬いものは歯のエナメル質です。それが人の内面や心境を現すのに用いられていることは、大変興味深いと思います。また歯という文字は、現在はお口にお米を止めると書きますが、昔は齒という文字が使われ、私は人の上半身と下半身のバランスを止めているというふうに理解したのですが、顎の位置が平衡バランスに大切な感覚器であるということを昔の人は知っていたという風にも考えられます。
ご存じのように今日本は有数の長寿大国です。健康で長生きは理想ですが、やはり病気となりある程度介護が必要になる方も膨大な数となることでしょう。ご高齢で入れ歯を使用されている方は多いと思いますので、誤嚥性肺炎についてもお知らせしたいと思います。食事をして、ごっくんと飲み込むことで食塊がお口の中から咽の方へ移動しますが、その時に歯が無いと首周りの筋肉の長さの確保ができないので、なかなかうまく飲むことが出来ません。仮に飲み込めたとしても咽頭付近の筋肉の収縮が全体と連動しないので食塊の一部は食道ではなく肺の方に入ってしまう、所謂、誤嚥性肺炎が起こりやすくなります。老人ホームや施設、また入院されますと、皆さん入れ歯が落ちたりするので誤嚥性肺炎をとても気にされ、入れ歯をはずそうとすることが多くなります。しかし、何もしないでも唾液をごっくんと飲む事は起こるので、出来るなら入れ歯を常時入れていた方がリスクは少なくなると思います。入れ歯を入れることでかみ合わせが出来、顎の位置を保定することが一番大切なのです。
もちろんその方の歯の衛生状態もとても大切です。食べた後に歯を磨かないと、台所の流しの配管のように時間が経つにつれニュルニュルになってしまいます。そのニュルニュルで細菌は莫大に繁殖しているのです。
昨今は高齢化社会と言われ、特に日本は世界の中でも一番高齢化が進んでいます。また、日本の中でも私の暮らす秋田県は一番高齢化が進んでいます。ということは世界で一番高齢化がすすんでいるのは秋田県ということになります。
入れ歯がしっかり入り咬み合せの安定が得られれば呼吸もしやすく発音もしやすい、食べ物は飲み込み易く唾液がたくさん出るので、痴呆症の防止にもなり、顎の位置が保持されるので全身の経絡の繋がりも活性化し、全身が若返り生活水準が少しでも上がるようにできることでしょう。終末期の医療は医科だけでなく歯科と連携を組んでいかなければならない時代へ突入してきているのです。
田中 利尚
田中 利尚氏 歯科医師.整体師 日本抗加齢医学界専門医 国際統合医学界認定医 「咬合(かみあわせ)を制する者は歯科をも制す」という、歯科医学の見落とされている最も大切な力学的調和という根本理論に触れ、かみあわせを追求。しかし身体が変位していると良いかみ合わせを構築できないところに西洋医学の限界を感じ統合医療を目指し東洋医学(整体)を勉強。 顎が痛い、お口が開かない、首肩の凝り、腰痛、うつ病までを含む顎関節症の治療にも取り組んでいる。 「健康は歯から」を確信している。 |