妊婦さん、乳幼児、小学生、中学生、高校生、大学生、成人、社会人、壮年期、老人、介護を必要としている方など、歯科では人の生まれる前から亡くなるまですべての場面に接触します。
来院されるきっかけは、虫歯や歯茎のトラブルである歯周病、顎の痛みやお口が開かないなどの顎関節症など、なにかしらの症状が現れてから。
今の科学では虫歯は歯の汚れからミュータンス菌が菌体外毒素を出し、その成分が酸性のため歯が溶け出すということ、歯茎の中に歯周病菌が入って歯周病になること、また歯のかみ合わせが狂ってしまったことでお口が開かなくなるということなどが明確になっています。
しかし、実はそれらの症状の本当の原因には、目には見えないかみ合わせの力が働いています。
接触する歯と歯の間に食べかすがあるのに、手前の歯は虫歯、後ろ側の歯は虫歯ではないということが臨床ではよくあることです。
歯周病においても、歯の周りが同じように汚れているのに健全な歯と歯周病になってしまう歯があります。
顎関節症は本来はかみ合わせが原因ですが、かみ合わせには問題のないケースが増えています。
どうしてそのような差がでるのでしょうか。
もっと大きな視点で考えると、その根源は「食」と「環境」にあります。
「食」「環境」の歯への影響
1920年代、アメリカのプライス博士が、世界中の集落でそこに住む人の歯を調査した貴重な文献があります。
そのなかに、歯医者がいない山奥の集落でも、地元でとれる物を加工しないで食べている部族は、虫歯も歯列不正もなく健康であるのに対し、近代食を取り入れ加工食を食べるようになった部族は、虫歯が多くなり顎も細く歯列不正が多くなるというデータがあります。
日本でも、昭和初期の食べる物があまりなく加工食品もない時代のほうが、平均寿命は短くても、肉体精神は健康だったのではないでしょうか。
昨今、コンビニやファーストフードで便利さを追求した弊害により、虫歯や歯周病、顎関節症を作ってしまったといえるかもしれません。
トランス脂肪酸の問題
そのような背景もあり、歯科では食事指導をさせていただくことが多く、特に少子化といわれる現代において、妊娠前から食事を見直す必要性をお話ししなければなりません。
妊娠前のマイナス1歳からの食生活で気をつけるべき点として、トランス脂肪酸の問題を挙げたいと思います。
すでにその害はご存じかもしれませんが、トランス脂肪酸は蓄積性があり、ハーバード大学の資料ではLDLコレステロールの増加、HDLコレステロールの減少、血栓の形成促進、Ⅱ型の糖尿病になりやすくなるなど、たくさんの問題があります。
また、トランス脂肪酸は胎盤を通過するため、妊婦で一番問題な子癇前症(妊娠中に高血圧やタンパク尿を特徴とする疾患)のリスクが上昇します。
先進国では規制が始まっていますが、日本ではまだ規制不要という立場であるようです。
トランス脂肪酸を含む代表的な食品はマーガリンで、今でも学校給食にでているかもしれません。
世界保健機関のWHOは、トランス脂肪酸を2023年までに世界の食品から一掃することを目指す段階的な戦略を発表していますが、どんなことでも日本は規制が10年遅いといわれ、自主的にチェックして、なるべくトランス脂肪酸を含む食品を摂らないようにしなければなりません。
人は一度美味しい物を知ると、それを食べないということがなかなかできないものです。
トランス脂肪酸が添加されると、人は美味しいと感じてしまいます。
しかし、健康を害するものを食べ続けるのはいかがなものでしょうか。
植物油脂やショートニングなどの表示に注意し、自らが取り入れる油を正しく選択する必要があります。