前回は、お母さんに嫌われないように、褒めてもらえるように、認めてもらえるように、振り向いてもらえるように、そしてわかってもらえない経験を二度としないように、子どもが「ちゃんとする」「がんばる」ようになるというお話でした。
自分のことで精一杯
ちゃんとしなければいけない、頑張らなくてはいけない、という思いを強く握りしめている方の共通点として、お母さんの「器が小さかった」、言葉を変えるとお母さんの「精神年齢が低い」ということがあります。こう話すと「今思い返してみると、たしかにそう」と多くの方が納得されます。このお母さんは、器が小さく余裕がないので、子どもの心を思いやることができません。自分のことで精一杯です。多くの場合、自分が大変だとアピールして、周囲の注目を集めようとします。いわゆる〝カマッテちゃん〟です。愛情を受け取る(奪う)のが上手です。この場合、母親より子どもの方が精神年齢は高いので、お母さんに気をつかって、お母さんの不満を満たそうと頑張る子になっていきます。
母親にすれば、自分より成長している部分は、理解不能な部分となります。この子はヘンな子だと思ったり、その部分を無視したりします。そうすると子どもは、お母さんの機嫌が悪くならないように、お母さんの負担にならないように、お母さんより成長している部分を出さないよう、感じないように我慢します。さらには自己否定にもつながって、お母さんの機嫌が悪くなるのは自分のせいだと感じてしまいます。頑張ってお母さんの言うとおりにしよう、ちゃんとその教えを守ろうとして「ちゃんとする」「がんばる」をマイルールに加えます。
母親との葛藤を超えて
成長して思春期になると、自分らしさを探す時期がやってきます。自分らしさと母親の価値観がぶつかって、葛藤が生じます。反抗期が始まります。反抗期がなぜ起きるのか? 生まれてから思春期までは、お母さんの教えをインストールして、ひとりで生きていく準備をします。お母さんの言うことを聞いておけば、お母さんの機嫌も悪くならないし、自分も間違っていないと思えるので安心です。どんな子も基本的にお母さんが大好きだし、お母さんを幸せにしたいと思っています。お母さんに嫌われることは、とても恐ろしいことだと感じています。お母さんの教えをしっかりと守ることが当たり前の状態です。
思春期になると「自分らしさ」「どんな自分でありたいか」ということを考えるエネルギーが湧き上がってきます。お母さんの教えを壊さないと「自分らしさ」を表現できないのですが、お母さんの教えがしっかりと根づいているため、一旦その教えをすべて壊す必要があります。母親を全否定してマイルールを作り直します。尊敬できる人や友人をお手本にして、自分らしく生きていくためのルールを作ります。
しかし「お母さんが厳しすぎる・お母さんが大変そう・お母さんがかわいそう」こんなふうに思っている子どもは、お母さんに反抗できません。多少の反抗期はあっても、完全に反抗を終えることができません。「自分さえ我慢しておけば」とお母さんを困らせないように、怒らせないように、自分らしさを封印して気を遣います。
思春期に反抗期を終わらせられないと、その後も母親の価値観で物事を判断しつづけます。考え方も、行動もお母さんの価値観に照らし合わせて、正しいか間違っているかを判断します。学校や社会との関わりのなかで、お母さんの価値観が「世間」「人目」「人の迷惑」という言葉にすり替わっていきます。でも本当は「母の世間体」「母の目」「母の迷惑」が基準になっています。(続く)