2009年にラオス支援活動として設立したプレマシャンティスクール。
そのとき現地で交渉や建設の指揮をとってくださったのがNGOテラ・ルネッサンスです。
現役の大学生が、たった一人で始めたその支援活動は、今やアジア2カ国、アフリカ3カ国、日本にまで広がっています。
創設者の鬼丸昌也さんに、立ち上げのきっかけや想いについて伺った後編です。
鬼丸 昌也(おにまる まさや)
1979 年生まれ。立命館大学法学部卒。幼少期より世界平和に関心を持ち、高校在学中にスリランカの農村開発指導者アリヤラトネ博士に「すべての人に未来をつくる力がある」と教わる。
さまざまなNGO 活動に参加、2001 年カンボジアを訪れ地雷被害の現状を知り講演活動を始め、同年11 月テラ・ルネッサンスを設立。
認定NPO 法人テラ・ルネッサンス理事・国内事業部長。
「無い」ことは資源「有る」人とつながれる
――思考や行動がとても柔軟でいらっしゃいますよね。バブル世代以上にはあまり見ないしなやかさを感じます。
鬼丸 それはちょっとわかりかねますが、僕は英語ができないので、そういった自分ができないことは任せてしまうのです。
――「任せる限りは信頼してそのままを預ける」とおっしゃっているのを動画で拝見しました。
鬼丸 はい、そうなんです。それしかありません。もちろん少し口出しすることはありますが(笑)。国内外に関わらず能力的にも時間的にも制約があるので、すべてに関わることはできませんよね。社会的にもそうだと思いますが「無い」ことは資源です。無いから「有る」人と関わっていける。弱くてもいい、弱みがあってもいいのです。また、「信念」も大切だと思いますが、信念を表す「表現手段」は多様であっていいはずなのです。私の師にもよく言われるのですが、例えば、富士登山をするにしても、山梨県からのルートもあれば、静岡県からのルートもある。極端な話、ヘリコプターで登るという方法もある。頂上に登るということに対して、手段は無限にあるはずです。この方法しかダメだと決めてしまったときに、最も可能性を奪ってしまうのではないでしょうか。それは子育ても援助もいっしょです。「これしかダメだ」とした場合、可能性が奪われる。どうありたい、どうなってほしいというビジョンだけ共有できれば、あとは多様な方法があってもいいはずなのです。私たちができないことをプレマさんがやってくださっています。そうやって、企業、自治体、宗教団体、個人、すべてがつながっていける。そう考えてきました。
――公式サイトの「私たちにできること」のコーナー、素敵ですね。「支援は『いい話だったね』で終わらせちゃいけない。一歩踏み出してこそ」とおっしゃるのを拝見しましたが、「はがきから参加できる」ことはハードルが低く、大きなきっかけになりますね。
鬼丸 はがきや寄付も、社会参加の入り口で、その入り口も多様であるべきだと思っています。事業体としては、効率のいい資金調達は必要です。しかし、いろいろな入り口からどう関わろうとするかということを提供することが、多様な人と共に社会変革を成し遂げるためには必要です。
――言い訳できませんよね(笑)。
鬼丸 そうなんです(笑)。一歩踏み出すということが大切なので。0から1を作ったという体験は、その人を一生支えます。たとえ失敗に終わったとしても、成し遂げたことは自信になりますので、それをぜひとも経験してもらいたいのです。そのための一つの入り口かもしれません。
――社会全体の底上げをしてくださっているような印象を受けます。
鬼丸 社会そのものに関心を持つ人が増えないと社会の問題は解決しませんし、国際協力が一部の「意識高い系の人の趣味」で終わってしまうと、自己満足でしかありませんので。本気で変えようと思うと、多様な関心、多様な変化が必要なのです。そうするとどう社会変革に関心を持ってもらうかという視点が必要になってきます。ミクロとマクロ、両方の視点が必要です。
「思考」と同じように「感情」も整理する
――そういった多様な視点を持ち続けるために、普段、意識しておられることはありますか?
鬼丸 一つは、できるだけ通常の仕事作業は効率化して、思考ノイズを入れないようにすることです。学生のころって時間割があるので、次に何をしようかと考えることはありませんよね。大人になった瞬間に自由ではありますが、「次に何をしようか」と考えること自体がノイズだったりします。そこで、一日の内にいつなにをするかをまず初めにある程度決めてしまって、できれば前倒ししながら、突発的なことに柔軟に対応できるようにしています。効率化している理由は、残った時間にやっていることや、その時間に気づくことがたくさんあるからです。例えば、家族や尊敬している人、お世話になっている人との時間を大切にする。そして、できるだけ本や映画をたくさん見る。最近では、アマゾンのオーディオブックを耳で聴いたりもします。歩きながらでも聴けますよね。おかげで多様な角度のものの考え方を得ています。
また、瞑想をする、神棚の水、ろうそくを換える……そういったルーティンのなかで無心になる。思考して気が立っていることと、気を静めることとのバランスのなかで、常に俯瞰していくのだと思います。静と動のバランスといいましょうか。そのなかに新しいアイデアが生まれてくるのではないでしょうか。その時間をどこで作るかについては課題です。
――なるべく早く帰宅されていると拝見したことがあります。
鬼丸 18時に帰宅できるようにがんばっています。娘が21時に寝るので、いっしょに寝てしまう。そのかわりに朝は4時から起きています。
もう一つは、たまに、ノートに「感情」や「やっていること」をすべて書き出しています。脳のなかでごちゃごちゃにしているから気持ち悪くなって不安になったりするわけですので、それを可視化して整理して組み替えをするとすっきりします。家族にそのノートを見られると困りますが(笑)、頭にあるものを、一度、文字にしてしまったほうがいい。ビジネスではやっているはずなのに、「感情」を整理することを、人はあまりやっていないと思うのです。それが重要だと思います。
――私もときどきやりますが、「感情」のほうは破いて捨てることも(笑)。
鬼丸 そうそう。火で燃やしてしまうとかね。宗教では浄心行などといいますし、古今東西似た方法があるのでしょうね。大切なことだと思います。
――成功しておられる方や、ゼロからなにかを作り上げた方は、そういった独自の方法をお持ちですよね。
鬼丸 そうですよね。ビル・ゲイツも年に2回、1週間ほど、誰とも連絡を取らない「シンク・ウィーク」を設けていて、その間、ひたすら本を読むそうです。それによって思考が深まり、その後の活動が効率よく効果的にできるのでしょうね。
――なんだか禅とも似ていますね。
鬼丸 まさに一緒だと思います。感じる、考える、行動する。この3つが一体化できていると効果を生み出すことができると思います。そこを目指せるようにがんばっているところです。
自信がなければ最初は承認欲求を原動力に
――その後の活動の広がりについて、教えていただけますか?
鬼丸 2005年ウガンダの元子ども兵の社会復帰支援事業を始めてから、一気に活動が広がっていきました。自前の事業を作ったことで、具体的にどういったお金が必要なのかが見えてきて、それを支援者の方に訴えることにより収入が5000万円を超え、おかげで人を採用でき職員も増えました。そして、カンボジアに江角を派遣し、インターンシップの採用にも力を入れ始めました。その次にコンゴ、震災があったので岩手の大槌、最後にブルンジ、ラオスへと広がりをみせました。地雷、子ども兵、小型武器という3つの課題がある国で、活動を広げていくことができたのです。ある意味、循環がよかったのかもしれません。
――どんな方から寄付がありますか?
鬼丸 経営者や、子持ちのサラリーマン、働く40代の女性などが多いのですが、講演に呼んでくださった方のつながりではないかと思います。
――インターン生はどんな方ですか?
鬼丸 国際系の学部を中心に、文学部、法学部など文系が多いですね。
――どんな想いで来られるのでしょう? やはりなにか役に立ちたいという想いで来られるものでしょうか。
鬼丸 こういった課題に対して貢献したい、もしくは社会変革に対する取り組みについて学びたいなどですね。
――鬼丸さんご自身「自己肯定感が低い」と書いておられますが、自分に自信が持てない人が前に進むために必要なことはなんでしょうか?
鬼丸 「覚悟」ではないでしょうか。小さい覚悟でかまいません。なにか物事を決めることは「決心」。そうではなく、目標に至るまでの困難を引き受ける心構えが「覚悟」なのです。そのうえで、ゼロから最後までやり遂げる。これが大切だと思います。特別大きなことじゃなくていい。講演を一度やりきるとか、とにかくひとつまずなにかやってみる。そのうえで、やってみたことを自分や社会にフィードバックすることが、その次に大切なことです。「できました」と報告したり、自分に対して「よかったね」とほめてあげたり改善提案したり、社会的にきちんと発信すること。自分たちがここにいるということを認知されないと力になりませんし、共感者も集まらないので。
最初は、承認欲求を逆手にとって原動力にしてもいいと思います。いつか、行動そのものに無心になれるようになってくると思います。そうすると自動的に回り始めるんですね。モーターを動かす一番最初、車でいうと1速のときには力が要りますよね。そういうときには、承認欲求、不安や恐れなど、すべてのエネルギーを使っていく。そして、2速、3速となってスピードが出てくれば、スムーズにいくようになります。そうなると承認欲求も必要なくなってくるはずです。最初のうちは、身体感覚や心の欲求を、大切にしたほうがいいのではないでしょうか。