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インタビュー取材しました。

学校法人 りら創造芸術学園りら創造芸術高等学校 インタビュー後編 りらファクトリー

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私立高校「りら創造芸術学園」は、5教科も学習しつつ創作芸術活動を通して人間力を養っています。山上範子校長に創設の経緯について伺った前号の続編。今号では、和蝋燭の原料「ブドウハゼ」の枯死したとされる原木を生徒たちが発見した経緯について教頭の鞍雄介先生に、その実からできた木蝋で化粧品「キノミノリ」を開発した「りらファクトリー」について担当の志茂梨恵先生と現役の生徒たちに聞いてきました。

「私たちの活動やブドウハゼの良さをちゃんとわかってくださる方に買ってもらえたらうれしい」と語る生徒たち。地域の大人たちとやりとりする度胸も、舞台で人前で話すこと、ミーティングではっきり意見を言うことで培われる。一番左は担当の志茂梨恵先生
 

地域の歴史と想いを
生徒が見つけて受け取る

——「ぶどうはぜ」の原木を見つけた経緯を教えていただけますか?

鞍先生:りら創造芸術高等学校(以下、りら)は芸術系授業に特色がありますが、実は、ユニークな普通科(笑)。芸術高校が地域探求授業で研究をおこなっていることを不思議に思われたりしますが、人に「伝える」ということが芸術のコアであり、そのためには観察することが重要な要素。探究の目は芸術に不可欠です。その地域探求系選択授業の一つとして「地域デザイン」があります。地域を題材にした授業は、多種多様な課題が内在しており、教員の立場から見て教科としての指導の難しさもありますが、教科を越えて地域のいろいろな方がつながってくださるメリットもある。そういう意味で芸術は探求授業と相性がいいんです。

2015年におこなったフィールドワークでブドウハゼの実を収穫しているおじいさんと初めて出会いました。5メートルもの高い木に登って身軽にひょいひょいと収穫していく様子に驚きました。そのときに、ブドウハゼが和蝋燭や鬢付け油に使われる木蝋の原料「ハゼ」の実がなる木だと知り、同じ海南地域に和歌山唯一の製蝋所があることも教えていただきました。

その一年後、前出の製蝋所を見にいこうということになりました。それが「吉田製蝋所」です。そこにたまたま、京都の和蝋燭職人さんもおられ、お二人に話を伺うことができました。お二人の話からは、大切な伝統文化を軽視している今の日本の風潮への憤りのようなものを感じました。和蝋燭職人さんに「舞妓さんたちの顔の白粉がなぜあんなに白いのか」と訊かれ答えられませんでした。「和蝋燭はオレンジ色に光る。だから、その光の下で綺麗に見えるように白く塗っている。最近は外国の人のほうがそれを知っていて、照明を消して和蝋燭で舞妓さんを撮影したりする」という話を聞きました。和歌山には収穫をしてくれる人がもういないから、今、京都の高校生たちと京都を産地にする取り組みを進めている、とのお話に、和歌山の高校として少し寂しい気持ちをもちました。そのお話の最後にいただいた資料に「ブドウハゼの原木が学校が立地する近隣の松瀬地区にあり、昭和30年ごろに枯死した」と書かれていました。

ところが2017年、「地域デザイン」の特別授業「特用林見学」で、松瀬地区のシイタケ栽培家の湯谷さんから「湯谷家の土地のすぐ下に、 70年前には、ブドウハゼの原木と書かれた看板があった。おじいさんが天然記念物だと教えてくれたから間違いない。枯死したとの情報を聞いたのは初めて」と伺ったのです。翌週、特別校外授業として湯谷さんに案内していただき見にいくことになりました。道なき道を草木を切り分け進んでいくと、立派なブドウハゼの原木と対面したのです。そこから、大学や県やほかの高校生も巻き込んだ3年間の探究学習をしていくなかで、70年間忘れられていたブドウハゼの原木は、県指定の天然記念物に再登録されました。

今後、どうやって守ればいいのか。地元の方に「昔どれだけ価値があったかと言われても、やっぱり忘れられてしまうものだから『お金になるかどうか』が大事だ」とアドバイスをいただきました。文化的価値だけでなく、そのような現代的価値をどうにか創って欲しい。原木を発見した生徒たちは、その想いを後輩に引き継ぎました。

——りらファクトリーについて教えたいただけますか?

梨恵先生:「プロジェクト」と呼ばれる選択授業の一つで、いわば部活動です。地域の素材を活用して商品開発をおこなうので「地域おこし部」と呼ばれています。地域の牛乳を使ったプリンなどを開発したり、現在はブドウハゼを使った商品開発をおこなったりしています。「りらファクトリー」は営業許可を取るときに生徒が考えた名称です。

——みなさんがこのプロジェクトに参加しようと思ったきっかけは?

きら:私は音楽が好きでこの学校に入りましたが、商品開発に興味がありコスメが好きなので参加しました。商品開発や商品を売るためにどう伝えるかなど知るうちに楽しくなってきました。
まゆこ:私も舞台が好きで入学しましたが、化粧品に興味があり、りらファ
クトリーに参加しました。それまで化粧品の成分を見ていなかったのですが「キノミノリ」の原材料が自然素材と知ってから、化粧品になにが入っているのか気になり、商品の裏を見るようになりました。新しいことに挑戦できるのですごく楽しいです。
とわ:私も学校に入ったきっかけは音楽です。もともと地域産業に興味があったのと、北海道出身なので和歌山のことを知れたら楽しいかなと思って入ってみたら、おもしろいです!(笑)
ひまり:私はもともと、地域に関わることがしたくて、中学校でもしたかったけれど、コロナ禍であまりできなかったので入ってみました。
りょう:私は化粧品のことはわからなかったけど、自然に触れあったり、おじいちゃんおばあちゃんとお話ししたりすることに興味があって入りました。入ってみたら、化粧品とかブドウハゼとかにも興味が出てきました。すごくアットホームな雰囲気で好きです。
あゆむ:僕は映像と写真の道を志望して、この学校に入りました。去年は違うプロジェクトに入っていましたが、先生からの助言もあり、りらファクトリーの活動を記録してドキュメンタリー作品を作ると面白いと思って参加しました。今は使える素材を撮影するなど、とにかく素材集めをしています。

地域の宝と技に
生徒の想いを乗せた化粧品

——ブドウハゼから化粧品を作った経緯を教えてください。

梨恵先生:紀州はかつてブドウハゼ産業で栄えていたそうです。しかし、時代と共に衰退。木を育てる人も減り、収穫する人もいなくなり、収穫量も減った。それは需要が減ったためでもあります。吉田製蝋所さんは細々と続けてこられましたが辞め時を探していたそうです。ところが、原木が見つかり、2020年に天然記念物に再登録したことでメディアに取り上げられるなど盛り上がりを見せたため「辞めるに辞められへんくなった」と陽気におっしゃってくださいました。一時の盛り上がりに終わらせず生業として復活させるために、りらファクトリーはブドウハゼで化粧品を作ることにしました。
きら:吉田製蝋所ではブドウハゼの実を蒸して「玉締め式圧搾機」で油圧をかけて蝋を搾る、昔ながらの「玉締め式圧搾法」で天然成分100%の木蝋を作っています。薬品などを使う抽出法のほうが効率が良いそうですが、吉田さんは天然にこだわり、ずっとこの製法を守り続けているそうです。

梨恵先生:最初の試作は、木蝋と米油を混ぜただけのクリーム状のもの。試作を始めて3週間ほどでできました。でも、コスメ好き女子高生は「匂いがダメ」と言い出しまして(笑)。せっかくなら、地域にちなんだ香りにしたいと香り探しの旅が始まり、この紀美野町の町木である「カヤ」を使って自分たちで精油を作ることにしました。

枝や葉を集めて蒸留装置で試しましたがまったく精油にならず……。カヤの精油の販売会社に聞くと「実」で作っていると教えていただき、実がなる時季に拾い集めました。集めた量は3キロほど。一生懸命拾い集めた実から初めて一滴が出た瞬間は、拍手喝采、歓喜です! 香りを探して約半年後のことでした。精油ができた達成感から本来の目的に立ち返り、木蝋クリームに精油を混ぜたものを、たくさんの人に試してもらいました。すると、手荒れのひどい生徒から「あかぎれにいい」などの感想をもらい、これは商品にして販売したいという思いが強くなりました。それから、木蝋は鶯色のままだと化粧品には使えないことを和歌山県林業試験場から教えていただき、吉田製蝋所の協力もあって白蝋をいただきました。ここまでが1年目のことです。

2年目は、商品化に向けて動き出しました。精油がたくさん必要なので、原料のカヤの実をできるだけ多く拾うため、カヤの木を探すことから始めました。そこで、13本のカヤの木を天然記念物に登録した方と出会い、実を拾わせていただけるカヤの木の所有者を何軒も紹介していただきました。
ひまり:昔、紀美野町から高野山にカヤの油を奉納していたそうで、地域には大きなカヤの木がたくさんあります。
りょう:カヤの油は凝固点が低く、寒い高野山でも使いやすかったそうです。
梨恵先生:調べてみると、カヤの精油は柑橘系と樹木系が混ざったような匂いとのことでした。ほかの精油とのブレンドも試しましたが、カヤ精油単品が一番香りがよいということになり、それと白蝋と米油で作ることにしました。奇しくも米油メーカーも和歌山。オール和歌山産で作ることに。

ただ薬機法上、高校生が化粧品を製造することが難しいためOEM*メーカーを探しました。生徒たちがネットで調べて何社もの化粧品会社に電話しましたが、高校生の活動ということと、カヤの精油が化粧品の成分として登録されていないことなどから難航。さまざまな方のご縁とご協力で見つかったのが、現在作ってくださっている大阪エースさんです。化粧品を発案した生徒が卒業するまでに商品化をという願いが叶いました。大阪エースさんの助言もあり「マルチバーム」という形態の商品となりました。商品名やロゴやデザインも生徒が試行錯誤して作り上げました。できあがった精油量の関係で最初に作った商品は100個のみ。売ってみると4日間で完売。手ごたえを感じました。購入者にアンケートに答えていただき、さまざまな使用感を知ることができたので、それを次の年に引き継ぎました。

 

想いのバトンを
最後は地域へ還元

——その「マルチバーム」を改良したそうですが、どんなところですか?

きら:酸化しやすい性質の米油と、香りが飛びやすい性質のカヤの精油です。匂いが飛んだり油が酸化したりすると最後まで気持ちよく使い切れない。そこで、酸化しにくいオリーブオイルとホホバオイルを試してみて、べたつきがないホホバオイルに変えました。また、香りが飛びにくいように表面積も小さくしました。香りがなくなる前に使い切れるように全体量も減らしました。でも、最初の商品を知っている人は小さくなったと感じてしまう。とはいえ、ホホバオイルは米油より高価。商品の値段はそのままで、より価値を高めるために、第一弾にはなかった箱を作って入れることにしました。美術の先生の天然和紙工房で、ブドウハゼ染めの和紙を作っておられたので、それで和紙箱を作っていただき、焼き印を入れて完成したのが、第二弾マルチバームキノミノリです。

——今年度の活動を教えてください。

きら:キノミノリのシリーズ化を見据えて、新しい商品を考えています。この活動の目的はブドウハゼ産業の活性化と地域の活性化なので、バームだけでは活性化が難しい。いろいろな商品を作ろうと、リップクリームとアロマキャンドルの開発をがんばっています。

——リップクリームはどんなところにこだわっていますか?

きら:保湿力です。木蝋はすごく保湿力が高いので最適です。

——現在の課題は?

きら:クリームは何度も試作し納得のいくものができました。後はパッケージ。しっかりと木蝋の価値を伝えられるものにしていきたいと思っています。
梨恵先生:中身のクリームの部分の原価だけでも、今の試作品の量では400円くらいします。ということは、販売価格はもっと上がってしまう。
きら:そうなると、パッケージも上質なものでなくてはだれも買わないと思うんです。容器の素材はバームと同じくアルミがいいかなと現段階では思っています。キノミノリブランドとしての統一感も出ると思いますし。

形状はスティックで、すぐに塗れて持ち運びしやすいようにしたいと思っています。試作品を使っていますが、全然べたつかないし、塗った後に飲み物を飲んでも大丈夫。これを塗ってから色付きのリップを塗っても全然崩れないのでベースにも使えます。

——今後の展開を教えてください。

きら:次は地域産業に繋げていきます。去年の秋、私たちの活動を地域の人たちにプレゼンしました。
梨恵先生:まちづくり協議会、地域おこし協力隊、役場のまちづくり課の方などが来てくださいました。そのなかから、カヤやブドウハゼを産業にしたいという方が出てきたので、産業化のお手伝いをしているところです。
きら:地域産業として地域の方の仕事にしていただくのが私たちの目標です。

——地域からすると発想豊かな企画課がついているようで頼もしいですね。

梨恵先生:高校は生徒がどんどん入れ替わります。だから、新しい発想の生徒が次々と現れ、新しいことが始まる。もしかしたらそれが、地域におけるこの学校の役割の一つかもしれません。

※ Original Equipment Manufacturingまたは Original Equipment Manufacturerの略。委託者のブランドで製品を生産すること、または生産するメーカのこと

令和2年1月24日(金)読売新聞に掲載
白蝋(写真右上)とその原料のハゼの実(写真左上)と「キノミノリ」のバーム(写真中央)。撮影は写真担当のあゆむくん。どうしたらきれいに見えるか、光や配置など試行錯誤して撮影してくれた。この「白蝋」にする方法も、薬剤などを使わず、木蝋を溶かしてごみをとって天日干しする手作業で作られていて天然成分100%だそう

- 特集 - 2023年10月発刊 vol.193

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