西洋医学の小児科医として勤務した後、真の健康を広めるために佐賀市内に統合医療の小児科・内科を開業した、山内昌樹氏。西洋医学や東洋医学、自然療法などを組み合わせ、患者さんに合った治療やアドバイスをおこなっています。本誌のコラム「くま先生のすこやか診療室」でも紹介されている、「より楽に、より自分らしく」生きるための気づきに至った、先生ご自身の道のりについて伺いました。
明治生まれの曽祖父が大阪で小児科の専門医をしていたそう。「医学部時代に自分が小児科を選ぶときに曽祖父の存在が頭の片隅にあった」と話す。
統合医療 やまのうち小児科・内科 院長
山内 昌樹(やまのうち まさき)
奈良県生まれ。小児科医として勤務するなかで、西洋医学の素晴らしさを感じつつも心から望む医療とのギャップに悩み、軽度のパニック障害を経験する。その後、Y.H.C.矢山クリニックの矢山利彦氏のもとで病気の真の原因を学ぶ。2010年、佐賀市内に統合医療やまのうち小児科・内科を開業。お母さんの自己肯定感を取り戻すことが家族みんなを笑顔にし世界を平和にすると確信して診療にあたっている。
統合医療 やまのうち小児科・内科
http://www.yamanouchishounika.jp/
迷いながらも
医師の道へ
——なぜ医師になったのでしょう。
父親が開業医だったこともあり、幼少期から薄々と親から「医師になってほしい」というプレッシャーを感じていました。言葉では言われないのですが、そのぶん「真綿で首を締められるような」感覚を持っていましたね。僕自身は親への反発もあって、ずっと学校の先生になりたいと思っていました。当時、学校で先生たちの話を聞きながら、「もし自分が教師になったらこんな話もしたいな」などと、自分の教師像をイメージしながら授業を受けていたんです。もともと勉強は好きではなかったのですが、生物だけは面白いと感じていたので、生物の先生になれたらと思っていました。でも高校3年生のときに、父親にとりあえず医学部を受けてみてと説得されて。落ちたら教師になればいいと考えて渋々受けたら、なんとか引っかかったというのが正直なところです。
——どんな学生生活でしたか。小児科を選んだのはどんな理由からですか。
医学部での4年間は、勉強はそこそこに、部活と友達づきあいばかりしていました。運動経験がないなかでラグビー部に入り、厳しい先輩方に鍛えられたので、練習や合宿は苦しみの連続。一方、多浪するなどいろんな経験をしてきた友人たちと一緒にいるのが楽しくて、よからぬ遊びもたくさん経験したりと、学生生活は充実していました。
小児科を選んだのは、もともと子どもが好きというのもありますが、時々ボランティアで児童養護施設の子どもたちと過ごした経験が決め手になりました。施設の子どもたちは、おとなしい子もいますが積極的な子は抱きついてきたり体をよじ登ってきたりして、体当たりで大人の愛情を求めてくる様子がずっと心に残っていたのです。医師は大変な職業だとわかっているなかで、子ども相手ならなんとかめげずにいけそうだと思いました。
——東洋医学や精神的な世界に興味を持ち始めたのはいつごろですか。
最初は大学受験のころです。なるべく楽に受かる方法はないだろうかと考えていたとき、瞑想をしたら潜在能力が高まるという本を読んで、勉強の合間に瞑想の真似事のようなことをしていました。その後、医学部時代に漢方などの東洋医学があることを知って、当時はまだ勉強はしていませんでしたが、心と体にやさしい医療もあるということに好奇心がわきました。そのころは、本物の医師ってどんなだろうと考えていました。今思えば、人それぞれだし僕がそんなおこがましいことは言えないんですけど。
妻がアトピー性皮膚炎の治療のため、佐賀県医療センター好生館に通っていて、それがY・H・C・矢山クリニックの院長である矢山利彦先生とのご縁に繋がりました。医師になってからは、奈良で勤務しながら2ヶ月に一度佐賀に通って、矢山先生が開催される勉強会に参加し、西洋医学と東洋医学を融合させた統合医療について学んでいきました。主には、今僕がおこなっている、生命エネルギーである「気」を生かすバイオレゾナス(生体共鳴)という治療法です。「ゼロ・サーチ」という機器を使って患者さんの気の流れを推定し、それぞれに合った改善方法を提案します。生命エネルギーを最大にして自己治癒力を高めるために、漢方薬や西洋薬、生活習慣のアドバイスなど、総合的に改善に導いていくものです。
統合医療で
真の健康をめざす
——バイオレゾナンスとはどういう考え方ですか。一般小児科に約9年間勤務して統合医療で開業するまでどんな道のりでしたか。
本来、人は健康に生きていける身体の仕組みを持っているにも関わらず、多くの人がガンや難病、原因不明の疾患で苦しんでいます。西洋医学では対症療法は得意ですが、病気の真の原因にはなかなか辿り着けていないようです。バイオレゾナンスでは、病気の原因は5つに集約されると考えます。金属汚染、電磁波汚染、化学物質汚染、潜在感染、精神的ストレスです。極論ですが、これらの汚染を取り除けば病気の原因がなくなり、自然と治っていくはずなのです。実際はその過程が難しく悩ましいのですが。
一般病棟で勤務している間は、西洋医学の利点も十分知りながら、画一的な治療や薬の副作用といった限界も感じていました。そして統合医療による本質的な治療の素晴らしさを知るにつれ、自分のやっていることに疑問を持つようになったのです。あるときから軽いパニック症状が出るようになり、冷や汗や動悸がして、もうこのまま続けるのは無理だなと思いました。それから矢山先生のところに「働かせてください」と、押しかけるような形で転職をしました。先生はすごくパワフルで、自分の信念のままに突き進む方です。なので、いまだにそうですが、これまでの常識を完全にひっくり返されることの連続でした。患者さんは末期のがんや難病を抱えていて、最後の望みをかけて来られる方がほとんど。回復する方もいれば、残念ながらうまくいかないこともあり、先生の近くであらゆることを経験させてもらった3年間は濃厚な日々でした。先生以外にも影響を受けたのは、天外伺朗さんです。講演会に参加したりお酒の席をご一緒させていただいたりしていて、そこで理想的な死に方や悟りながら死ぬということをお話しされるなかで、よく「実存的変容」という言葉を口にされていたんです。病気の治癒を妨げるものに、自己否定感や恐れなど、心のわだかまりをたくさん抱えていることがあるのだと。それ以来、意識を超えて根本から変わるにはどうしたらよいかということが僕自身のテーマになっています。当院を開業してからも、心理学や精神世界の知恵をどうにか子どもが元気になるために生かせないかと模索してきました。それを、『らくなちゅらる通信』のコラムでも書かせていただいています。当院では統合医療を提供していますが、お母さんは必ずしも代替医療などに興味のある方ばかりではなく、ほとんどは普通の風邪などでお子さんを連れて来られます。ちょっとおせっかいですけど、僕としては日々子育てで疲れているお母さんや、そういうことに興味はないけど悩んでいるお母さんをなんとかしてあげたいなと思っています。きっかけはお子さんですが、いろんな話をすることで、通ってくださるようになる方もいて、それが嬉しいです。
——コラムもお母さんたちのファンが多いようです。やはりお子さんの健康に、お母さんは大きく関わっているのですね。
お母さんが原因というわけではありませんが、お母さんにも代々刷り込まれてきた考え方の癖があって、それが子どもに受け継がれていきます。私たちは子どものころに、お母さんの機嫌が良くなることはやっていいこと、悪くなることはやっちゃいけないことというふうに、親の反応を見て自分に対する評価基準を持つようになります。反抗期でしっかり反抗できれば自分なりの生き方を確立していけますが、反抗期が中途半端だと、その基準を持ったまま大人になってしまう。無意識にこういう自分はダメだと自分を責めて、「〜べき」と、お母さんに対していい子であろうとし続けてしまうんです。親子関係は写鏡のようなもので、子どもは敏感にそれを感じ取ります。お母さんのなかで自分を否定する気持ちが減れば、子どもも自分を否定する気持ちが減って楽になります。子ども本人の性質は変えられないので、変えられるところとしてお母さんが与える影響に少しでも早く気づいてもらって、子どもが楽になる方向にもっていけたらと思っています。子どもが元気でいるために、お母さんのハッピーが鍵なのです。ただ、最初は自分を否定してしまうことさえオッケー。そういう気持ちに気づいたら、自分のインナーチャイルドの親になったつもりで「大丈夫だよ」と癒してあげるといいです。もちろん、悩みの渦中にいるときはオッケーなんてとても思えないし、それを僕もいっぱい経験してきています。ひとつずつ、ゆっくりでいいのです。
今ここの幸せを
見逃さずに生きる
——自分を裁くことなく受け入れるには、自分と対話して、自分自身との関係を深めていく必要があるのですね。先生ご自身は親との関係で悩んだ時期はありますか。
僕は三人兄弟の末っ子で、両親に愛されている実感はあったんです。ただ、医師になってほしいという親の望みをずっと感じて育ったので、自分のそのまんまを認められていない感覚は持っていました。もうひとつは、生まれてすぐに健康状態がよくなかったので保育器に入れられていたことがあります。そのときのことを深掘りしていくと、愛情不足や不安、寂しさが確かに感じられて涙が出てきます。そしてそれを癒すように自分を導いていくと、すごく楽になる。僕が好きな言葉に「自分の記憶は700%ウソ」というのがあって、人は本当に思い込みだけで生きているんですね。でも自分にとってはそれが真実なので、そこを認めて、癒してあげると楽になっていきます。
——コラムに書かれている自分を楽にする方法が好評です。自分を受け入れると身体はどう変化しますか。
身体としては、とことんリラックスしますね。私たちは普段あまり気づいていませんが、ささいなことで緊張しています。周囲の目や出来事、仕事の責任感など、自分の恐れから常に緊張が生まれていて、戦う体勢になっている。それが、自分を許して、自分を愛している状態になると、身体から力が抜けていきます。もちろん身体からのアプローチもあって、僕は気功をしているときに、呼吸を忘れるぐらいのリラックスを何度か経験したことがあります。コラムでは、リラックスする方法を書いていますが、それは僕自身が日々楽になろうと試行錯誤しているところから生まれたものです。僕は偏頭痛持ちですし、まさに医者の不養生でこれといった健康法はやっていません。忙しいなかでどうにか楽になるために、たとえば先日、「自分の幸せは誰にも邪魔されない」というアファメーションを思いついて実践し続けていたらとても楽になったので、みなさんにもご紹介させていただいた。そんなスタンスでコラムを書くことが、僕にとってもよい習慣につながっています。
——日常に、ふと楽になる瞬間があるだけでもよいのですね。
はい。お母さんを含め現代人はだいたい疲れているので、僕は「自分の好きなことを少しでもやってください」とよくお伝えしています。人はどうしても、自分の好きなこと、楽しいことよりも正しいことを目指してしまうもの。正しいほうは全部、他人のためなんですね。趣味でもなんでもいいですが、自分の「好き」や「楽しい」を優先させる時間を持つことで、わずかな時間でも自分に戻ることが大事だと思います。趣味がないという方は好きなお茶を淹れて飲むとか、トイレに行ったときに好きな動画を一本観るとか、そんなことでもいいんです。
僕はこれまで厳しい食事制限をしたり、がんばって心身を鍛えようとしたこともあったのですが、今は、幸せになるためにがんばる必要はなにもないと思っています。じつは、誰でも今すぐハッピーになれる。少しずつ学んできたなかでわかってきたのですが、私たちは「こうあらねば」と思うあまり、今の自分や人生までも否定して、今ここにある幸せを見逃してばかりいるのです。今手にしているもの、今ここにあるものに目を向けて、「ありがたいな」と思えばハッピーですが、逆に、他のなにかを求めることは、余計な緊張を作り出してしまいます。喋れること、食べられること、ここにいられること、当たり前のことはなにもなくて、あるものに気づくだけでも世界の見え方は変わってきます。今は、そうなるきっかけを自分で試行錯誤しながら、みなさんにもお伝えしていけたらいいなと思っています。